B-ALL

【CDX2/UBTF】B-ALLの新規サブタイプの同定②

  1. 若年成人女性に多く見られる新規B-ALLサブタイプ、CDX2/UBTF ALLの発見
  2. PAN3-FLT3の微小欠失がもたらすCDX2の高発現とUBTF::ATXN7L3融合遺伝子の両者を必ず有する
  3. CD10陰性CD20陰性のproBパターン
  4. GRAALLでは2.4%にCDX2/UBTF ALLが検出され、再発率や寛解導入後のMRD陽性例が多く、EFSは悪いが、OSはその他のB-ALLと変わらなかった

今回も前回に引き続き、ほぼ同時に3報の論文が報告した、B細胞性白血病の新しいサブタイプ、CDX2/UBTF ALLについての論文についてです。

Blood. 2022 Jun 16;139(24):3519-3531.

【CDX2/UBTF】B-ALLの新規サブタイプの同定① AYA世代の女性に特徴的にみられる高リスクB-ALLの新しいサブタイプ、CDX2/UBTF ALLの発見CD10陰性でcyIgM陽性...

Blood. 2022 Jun 16;139(24):3505-3518. (今回はこの論文)

Leukemia. 2022 Jun;36(6):1676-1680.

というわけで、今回の論文は、フランスのGRAALLグループからの報告で、タイトルは「Concurrent CDX2 cis-deregulation and UBTF::ATXN7L3 fusion define a novel high-risk subtype of B-cell ALL」で、St. Judeの報告と同じ号にBloodに掲載されています(Blood. 2022 Jun 16;139(24):3505-3518.)。

B-ALLの遺伝子異常の背景については#001で簡単に述べたので、今回はスキップしますが、この論文がSt. Judeの論文と大きく異なる部分は、GRAALLの臨床試験の予後情報も同時に解析できているという点かと思います。

一方で、CDX2/UBTF ALLにおいて検出された2つの遺伝子異常、PAN3-FLT3の微小欠失とUBTF::ATXN7L3融合遺伝子を同定したところについては同じ結果です。このグループは臨床試験のサンプルから既存のサブタイプをまず同定し、それらを除いたB-Otherの検体を用いてRNAseqを行い、CDX2/UBTF ALLを検出しています。St. JudeもGRAALLもクラスタリングとtSNEを用いてCDX2/UBTF ALLが特異な発現プロファイルを有していることを示しています。特にtSNE(最近はUMAPも)は視覚的に特異なグループを認識しやすいのでとても便利な解析手法と思います。

GRAALLもこれらの微小欠失はRAGの異常活動によって引き起こされたと推測しています。St. Judeと同様にNalm-16がPAN3エンハンサーの増幅を有していることと、CDX2の高発現を有していることを同定し、このPAN3エンハンサーを起点に4Cseqを行ってCDX2のプロモーターとのつながりを示しています。さらに、CRISPRiを用いてこのPAN3エンハンサーを破壊することでこのループが消失すること、PDX細胞を用いたDNA-RNA FISHを行うことで新生CDX2がcisに発生していることを示しており、このPAN3-FLT3の微小欠失がダイレクトにCDX2の高発現をもたらしていることを報告しています。

この2つの遺伝子異常がどのように関わっているのか、についてはGRAALLも考察しています。St. JudeコホートではVAFの差からPAN3-FLT3の微小欠失が先におこったのだろうという推測でした。GRAALLでは全体のコホートにおいてPAN3-FLT3の微小欠失によるCDX2高発現のみを示す症例と、UBTF::ATXN7L3融合遺伝子のみを有する症例が、それぞれ1例ずつ検出されています。どちらもCDX2/UBTF ALLとは異なる発現プロファイルであり、やはりこの両者が同時に発生しないとCDX2/UBTF ALLにはならないのであろうと思われます。

その他の遺伝子異常としてPAX5の微小欠失やChr1qの増幅が高頻度で見られていることもSt. Judeの報告や既報のCDX2高発現のALLの報告(Blood. 2022 Mar 24;139(12):1850-1862.)と同様です。興味深いことはCXCR4の変異が2例で検出されていることかと思います。この変異はWHIM syndromeやWaldenstrom macroglobulinemiaなどで報告されている機能獲得型変異で、CXCR4のInternalizationを防ぐことでよりCXCL12とのシグナルを得ることができるというものです(Nat Genet. 2003;34(1):70-74.)。CXCR4阻害薬の適応なども今後期待されるのかもしれません。

さて、肝心の臨床情報ですが、やはり若年成人女性に多く(中央値31歳)、55歳以上ではみられなかったとのことです。St. Judeのコホートでは10歳未満の症例は見られなかったということを合わせると、B-ALLとして生物学的に非常に興味深い発症の偏りがあると考えられます。また、表面マーカーもCD10陰性CD20陰性のproBパターンであり、CD34陽性でした。

治療反応性も悪く、初回寛解導入でCRに入らない症例も多く見られ、CRに入ってもMRDが陽性という非常に高リスクなパターンを呈しています。結果として移植の適応となる症例が多かったようですが、再発率も75%と非常に高いことに驚きます。一方で3年OSは他のB-ALLと大きな差はなかったとのことなので、サルベージ可能であるということなのかと思います。どのように再寛解導入したのか、その後どれだけ追跡しているのか、は少し気になるところです。

本報告もSt. Judeと同じく、機能解析までは行っていないので、この2つの異常が同時におこる特殊な白血病がどのようにして発生するのかということに関しては非常に今後の報告が気になるところです。また、本報告もSt. Judeの報告も4CseqやHiChIPといったクロマチン構造を立体的に調べる次世代シークエンサーを使用しており、今後のNon-coding領域の解析にはこのような解析手法は必須であるのであろうと思われます。

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