- 2007年から2014にかけて行われたCOGの1-31歳のT-ALLに対する臨床試験AALL0434のMTX部分のランダマイズ結果
- 5年DFSはC-MTXで85.3%、HD-MTXで89.4%とC-MTXの方が良好であった
- C-MTXの優位性は特にHR群で高かった(5年DFS 87.4% vs 70.0%)
- LR群を除く90%近くが頭蓋照射されていることは重要
小児B-ALLの治療成績は大幅に改善し、今では5年OSが90%を超えている。一方でT-ALLの治療成績も大幅に向上してきているが、まだB-ALLと比較すると改善の余地がある。
その理由の一つに、T-ALLとB-ALLでは薬剤感受性が異なることや、初診時のWBCが高い例や髄外・中枢神経系への浸潤例などの高リスクな症例が多いことが挙げられる。再発例では非常に治療困難であることも、治療成績が十分でない原因だろう。また、B-ALLと比較して患者数が少なく、臨床試験の完遂に時間がかかることや、ゲノム異常の全体像が十分に明らかでないことなども、成績の向上が緩やかであることの一因ともいえるかもしれない。
このような状況において、2007年から2014年にかけて世界最大規模ともいえるT-ALL(一部リンパ腫を含む)の臨床試験を行ったのが米国のCOGである。COG AALL0434と呼ばれるこの試験では、augumented-BFM (ABFM)レジメンを骨格として、以下の2×2のランダム化を行っている。(合計4つのアームにわけられる。)
(1)IM相におけるMTX強化の戦略
Capizzi-style(C-MTX)vs HD-MTX
(2)nelarabine使用の有無
この論文では(1)のMTX強化の方法についての結果が報告されており、タイトルは「Improved Survival for Children and Young Adults With T-Lineage Acute Lymphoblastic Leukemia: Results From the Children’s Oncology Group AALL0434 Methotrexate Randomization」で、2018年にJCOで発表された。もうひとつの(2)nelarabineについての結果も、2020年に同じくJCOで報告されている。

また、TAALL0434レジメンにおけるT-LBLの結果も2020年にJCOで報告されている。
MTXによる治療強化は、白血病の予後に大きく影響を与える重要な部分である。COGでは前身のCCG1991試験でC-MTXを使用しており、その後B-ALL SR群における標準となった。一方でB-ALL HR群においては、COG AALL0232試験においてC-MTXとHD-MTXのランダマイズが比較された。その結果、HD-MTX群の方が良好であり、その後B-ALL HR群の標準となった。B-ALLとバイオロジーの異なるT-ALLにおいて、最適なMTX強化の方法を同時期に調べたのが本AALL0434試験である。
C-MTXはMTXの投与量を徐々に増やしていく方法で、ロイコボリンによるレスキューは行わない。このアームではpegasparagaseが2回、VCRが1回追加される。一方のHD-MTXは、日本でも馴染みのあるBFMのスタイルで、ロイコボリンレスキューを行いつつ大量MTXを行うものである。こちらでは6-MP投与も行われる。IT-MTXはどちらのアームも2回である。
AALL0434試験のリスク分類は以下のようになっている。
LR群:1-10歳、初診時WBC5万未満、CNS1、精巣病変なし、Day 15でM1(芽球5%未満)のrapid early responders (RERs)、かつDay 29 MRD<0.1%をすべて満たす例
IR群:LR群でもHR群でもない例
HR群:Day 29がM2(芽球5-25%)もしくはMRD≧1%以上の例
重要なことは、LR群を除く全例に12GyのCRTを行っている点で、CNS3では18Gyの治療量を使用している。CNS3例とDay29以降に精巣病変を有する男性例は、ランダマイズなしでHD-MTX群に振り分けている。維持療法は男性が3年、女性が2年である。
合計で1189例が解析可能であり、男性が74%と非常に多かった。CNS3は7.5%にみられた。LR群が9.2%、IR群が68.0%、HR群が19.2%であった。5年EFSは83.8%、OSは89.5%と、これまでの80%程度のCOGやAIEOP-BFM ALL2000よりも非常に良好であった。
最終的にC-MTX群に519名、HD-MTX群に512例がランダムに振り分けられた。その結果、C-MTX群の5年DFSとOSは、それぞれ91.5%と93.7%と、HD-MTX群の85.3%と89.4%よりも良好であった。一方でランダマイズなしでHD-MTXを用いたCNS3の5年DFS/OSは76.7%/85.4%であった。
実際に再発例をみてみると、C-MTX群では32例(CNS浸潤6例)なのに対し、HD-MTX群では59例(CNS浸潤23例)と多かった。
リスク分類別の結果を見てみると、(5年DFS/OS)
LR群:C-MTX群が92.6%/94.4%、HD-MTX群が96.2%/98.1%
IR群:C-MTX群が92.5%/94.6%、HD-MTX群が88.3%/91.3%
HR群:C-MTX群が87.4%/90.5%、HD-MTX群が70.0%/79.1%
という結果であり、特にHR群ではSER(slow early responder; Day15 M2/3 or Day29 MRD 0.1-1%)においてC-MTXの優位性が顕著であった。
このHR群においてC-MTXの有効性が高かったという結果は、B-ALL HR群でHD-MTXの有効性が高かった結果と真逆の結果である。HD-MTX群との治療レジメンの違いは、pegaspargaseやVCRの追加(ただし6-MPは投与なし)という薬剤投与の面だけでなく、CRTのタイミングも異なっているので、単純比較ではない点は留意しておきたい。
現在の白血病の治療は、長期的な合併症を防ぐ目的で、できる限りCRTを撤廃していく方向のレジメンが主流である。そのため、後継のAALL1231試験では、AALL0434をバックボーンにCNS治療を強化し、CRTの適応を減らすことに成功している。
いずれにしてもこのAALL0434試験の結果は驚異的なもので、T-ALLの成績をB-ALLと遜色ないレベルに引き上げることに成功した。頭蓋照射に関する問題もAALL1231試験でクリアされており、今後のT-ALLの課題はB-ALLのように、いかに予後を悪化させずに治療強度のバランスをとっていくかということになるだろう。そのためには、T-ALLのゲノム異常とリスクの評価や、標的治療・免疫療法が可能かどうかなども重要になっていくと考えられる。

AALL0434検体を用いたT-ALLのゲノム解析も行われてはいるが、予後との関連性には触れられていない。また、T-ALLではnon-coding領域の異常が多いことから、まだゲノム解析も十分に行われているとは言い難い。
この辺りも含めて、よりよい治療が今後開発されていくことを期待している。