T-ALL

【COG AALL1231】頭蓋照射は90%のT-ALL/LLで撤廃可能であり、ボルテゾミブの追加はT-LLの予後を改善する

  1. 2014年から2017年にかけて行われたCOGの1-30歳のT-ALLおよびT-LBLに対する臨床試験
  2. 寛解導入と維持療法でのDEX使用と追加のpegassparagase2回の治療強化でVHR群やCNS3などを除く90%からCRT撤廃
  3. CRTの撤廃した群の予後はAALL0434の対象群と有意差なし
  4. Bortezomib併用をinductionとDIでのランダマイズ
  5. Bortezomibの追加はT-LBLに対して有効であったが、T-ALLに対しては予後の上乗せ効果はみられなかった

驚くべき好成績を残したCOGのAALL0434の直後に始まったT-ALLおよびT-LBLに対する臨床試験がAALL1321であり、その結果が2022年にJCIに報告された。タイトルは「Children’s Oncology Group Trial AALL1231: A Phase III Clinical Trial Testing Bortezomib in Newly Diagnosed T-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia and Lymphoma」である。

AALL0434はC-MTXの有用性ネララビン併用のDFSへの上乗せ効果を示し、5年EFSが83.7%、OSが89.5%とT-ALLの臨床試験の中では非常によい成績を残した。

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しかし、このAALL0434試験で最も気を付けないといけないところは、LR群を除く90%に対して頭蓋照射(CRT)を行っていることであった。T-ALLにおいてCNSを含む再発を予防することは非常に重要である一方で、CRTは認知機能やホルモンバランスの問題だけでなく、2次がんの累積発症率が30年で20%を超えるなど、長期的な合併症/副作用が大きな問題となる。

そのため、すでに多くの臨床試験において、CNSに対する治療の強化を行うことで、CRTを極力減らすことに成功している。このAALL1231試験はAALL0434の治療を骨格として、(1)寛解導入と維持療法でのdexamethasone (DEX) 使用とpegasparagaseを2回追加することによる治療の強化で、VHR群やCNS3などを除く90%からCRT撤廃することを試みたことと、(2)bortesomib併用による治療強化の効果をランダマイズで確認した試験である。

ただし、このAALL1231試験は、途中でAALL0434試験におけるnelarabineがT-ALLのDFSを改善したという結果を受け、途中からnelarabineを追加しつつbortezomibの効果もみるという試験は統計学的に不可能であるということで、2017年で中断、終了となっている。

本試験では以下のようにリスク分類を行っている。(T-ALL)
SR群:Day29 M1かつMRD<0.01%かつCNS1
IR群:SR群でもVHR群でもない群
VHR群:Day29 M3またはEOC MRD≧0.1%

MTXの使い方については、SR群にはC-MTX1回のIMを、IR群にはHD-MTXとC-MTXを1回ずつ計2回のIMを行うプロトコールであった。

また、このリスク分類は先行するAALL0434試験とは大きく異なる点には注意が必要で、同じリスク群を単純比較することはできない。そのため、CRTなしのAALL1231とCRTありのAALL0434を比較するために、
AALL0434:nelarabineなし群でかつLR群とCNS3・Day29 M3・EOC MRD≧0.1%を除いた例
AALL1231:bortezomibなし群で、かつCNS3を除くIR群もしくはAALL0434でのLR群の基準を満たさないSR群の例
を、同等のバックグラウンドを持つ集団として比較している。前述のとおり、寛解導入療法などでDEXを使用するなどの治療強化がAALL1231では行われている。

これらの2群を比較した結果、4年EFS、OS、CNS再発率、累世再発率などに有意な悪化は見られなかった。AALL1231試験でCRTを受けているのは、VHR群とCNS3群であるため、残りのT-ALL(全体のT-ALLの9割近く)の例においてCRTを予後を大きく悪化させることなく撤廃することに成功しているということになる。

一方でT-LBLにおいては、bortezomibを使用しない群において、AALL0434と比較して予後が悪化していた。これは、CNS対策で強化した治療が、T-LBLにとっては長期的な利益をもたらさず、治療毒性だけが増えてしまったからかもしれない。

AALL1231試験全体の結果として、寛解導入後(EOI)のMRDはAALL1231の方が0.1%未満である率が高かったが、最終的なEFSに関してはAALL0434と有意差は見られず、OSに関してはむしろ劣る結果であった。(4年EFS/OS)
AALL1231:81.9%/87.0%
AALL0434:84.4%/90.0%
このOSの悪化に関しては、特にVHR群における治療毒性による死亡の増加が影響していた。実際に寛解導入中の死亡はAALL0434が0.4%に対し、AALL1231では1.5%と有意に増加していた。寛解時死亡の割合も増加していた。一方で、累積再発率に関してはAALL0434が8.9%、AALL1231が9.3%と差は見られなかった。

さらに、AALL1231試験では、CRT撤廃に加えて、治療強化の一端として、先行試験であるAALL07P1において、再発T-ALL/T-LLで安全性を確認したbortezomibの併用を行うことによる予後の改善効果について、ランダマイズ法で調べている。

Bortezomibはプロテアソーム阻害剤であり、主には骨髄腫の治療に使われている。かなり強い薬で、それ相応の感染対策が必要であり、肺線維症や神経障害や腎障害をもたらす併用薬にも気をつかう必要がある。AALL1231では寛解導入にDEXを使用しているので、感染対策はさらに重要だったであろう。全体としては毒性に有意な差は見られず、併用は可能であると考えられる。

予後については、T-LBLにおいてbortezomibの併用は再発と病気の進行を抑えることで有意に4年EFS/OSを改善させた。(4年EFS/OS)
Bortezomib+:86.4%/89.5%
Bortezomib-:76.5%/78.3%
一方で、T-ALLではbortezomib併用の予後の上乗せは見られなかった。SR群およびIR群のT-ALLではわずかに予後を改善する傾向がみられ、CRT撤廃においても十分な結果を出していた。

一方で、VHR群に至っては逆に有意に予後を悪化させた。このVHR群は全体の10%程度いたが、プロトコール通りのBFMのHR block治療を受けた群は非常に予後が悪く、治療毒性という面からも治療強化という方向に進むというのではなく、抜本的な治療の見直しが急務であると考えられる。この群のゲノム的背景なども今後明らかになると思われるが、T-ALLの非常に予後不要な群を抽出できたことは、大きな一歩かもしれない。

さて、AALL1231ではCRTを撤廃する代わりに治療の強化を試みている。その一つが、寛解導入でのDEX使用である。これは、AIEOP-BFM ALL 2000における、寛解導入時のprednisoneとDEXの比較では、DEXでの治療毒性が増加したものの、ステロイド反応良好群においては再発率低下の効果が上回り、EFS/OSを改善する結果をうけてのものである。AIEOP-BFM ALL2000と比較して、AALL1231での寛解導入中の死亡率は変わらなかったことから、寛解導入でのDEX使用は今後も継続されるであろう。

一方で、維持療法でのDEX使用や寛解導入とDIでのpegaspargaseの追加については、寛解死亡の増加や膵炎の増加がみられており、今後のプロトコールでは見直しが必要となるであろう。

AALL1231は試験の途中でAALL0434のnelarabineの有効性の結果が明らかになり、試験が中途終了したのだが、試験終了の前では試験を離脱してnelarabineを使用するケースがみられた。CNSへの治療強化という意味ではnelarabineの追加は意味がありそうに見えるが、試験を離脱してnelarabineを使用した例と、使用しなかった例では予後に差がみられなかった。ただし、これは症例数が多くない上、きちんとした試験で解析された結果ではないことを留意しておきたい。

この研究のもう一つの面白い点は、T-ALLとT-LBLでbortezomib治療の効果に差がみられたことかもしれない。この両者は基本的には発症部位と進展の具合が異なるものの、本質的には同じ病気を見ていると考えられてきた。もちろんこれに懐疑的な意見もあるが、現時点で異なる疾患であると明確に示した報告はない。実際にゲノム解析などのbiologyが今後発展することで、本質的な違いが明らかになるのかもしれないが、同じ薬剤の治療効果の違いは、白血病細胞が増殖する微小環境の違いだけでなく、背景にある疾患としての違いを示しているのかもしれない。

Teachey DT, Devidas M, Wood BL, et al. Children’s Oncology Group Trial AALL1231: A Phase III Clinical Trial Testing Bortezomib in Newly Diagnosed T-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia and Lymphoma. J Clin Oncol. 2022;40(19):2106-2118. doi:10.1200/JCO.21.02678

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