- UKALL97/99とUKALL2003のretrospective解析
- 予後良好群:(1)+17+18保持(2)どちらか保持、かつ、+5または+20なし(High hyperdiploidy B-ALL全体の80%)
- 予後不良群:(1)+17+18どちらもなし(2)+5または+20保持(High hyperdiploidyの20%程度)
- 予後良好群は再発が優位に少なく、EFSが低い
- 予後不良群の結果はEOI MRDの結果に左右されない
小児B細胞性白血病(B-ALL)の予後は大きく改善し、現在は90%を超える生存率にまでなっている。その理由は、治療法の改善やリスク層別化によるものなどがあるが、大きな理由の一つに、小児B-ALLでは、治療に反応の良く予後の良い遺伝子異常を持つB-ALLが多いということがある。
小児B-ALLの遺伝学的なサブタイプのなかで、約30%と最も多くみられるのがhigh hyperdiploidyと呼ばれる異常である。High hyperdiploidy B-ALLの定義は、
(1)染色体数が51から67であること、もしくは
(2)DNA index≧1.16
とされている。しかし、両者は一致しておらず、DNA indexの1.16は染色体の53-54程度に相当する。そのため、high hyperdiploidy B-ALLの定義をDNA indexのみで行っている臨床試験の場合、DNA indexが1.15というような狭間の例に遭遇することも稀ではない。
High hyperdiploidy B-ALLの予後は良好であるため、そのリスクに合わせて多くの臨床試験において治療強度を落とした治療を行ってきた。しかし、再発率がかなり低いとはいえ一定の再発がみられることや、診断数の多さから、実数としての再発症例数が多いことが問題となっている。そのため、再発の全体数を減らすという意味では、high hyperdiploidyの中でのリスク分類を適切に行い、リスクに応じた治療強度を保つ必要が一部の症例では必要であると言える。
そのため、米国のCOGでは、high hyperdiploidyというくくりではなく、どの染色体が増加することが予後に影響しているかを過去のデータから解析し、+4+10のdouble trisomyや+4+10+17のtriple trisomyを、high hyperdiploidyの中の予後良好群と提唱し、実際にCOG AALL0331試験において、high hyperdiploidyではなく、triple trisomyを予後良好因子として採用している。
このようなhigh hyperdiploidy B-ALLのなかでのリスク分類を、UKALLのコホートで大規模に解析した結果が2021年にLancet Haematologyに報告された。タイトルは「Defining low-risk high hyperdiploidy in patients with paediatric acute lymphoblastic leukaemia: a retrospective analysis of data from the UKALL97/99 and UKALL2003 clinical trials」である。
この報告では、UKALL97/99(1997-2002)456例をdiscovery cohortとして、UKALL2003(2003-2011)の725例をvalidation cohortとして解析している。染色体数はG-bandで確認可能であったもののみをカウントしている。既知の検出可能であった融合遺伝子やmasked hypodiploidyは除外している。
まず、high hyperdiploidyおいて、既報通り染色体はランダムに増加しているわけではなく、増加しやすい染色体がある。また、染色体の数が多ければ(もしくはある一定の数であれば)予後が良い、というようなことはなかった。
ここの染色体をみていくと、+3/+5/+7/+20(不良)、+17/+18(良好)の6つの染色体が予後の良し悪しに関連していることがわかった。さらにCOGのdouble trisomiesやtriple trisomiesを適応してみると、再発は少なかったがEFS/OSには有意差がみられなかった。これはやはり背景となる人種・地域、治療の違いなどの影響が大きいことを示唆しており、他のgermline variantの報告の様に、海外の報告をそのまま他国の臨床試験に取り入れることの難しさを表していると思われる。
次に、上記6つの染色体のうち、どの組み合わせが最も予後に影響しているかを解析し、最終的に+17/+18/+5/+20の4つの染色体の組み合わせが最も予後に相関することがわかった。
文字で書くより図2をみる方がわかりやすいが、
※予後良好群(約80%)
(1)+17かつ+18保持
(2)+17または+18で、+5もしくは+20がない
※予後不良群(約20%)
(1)+17も+18もない
(2)+5または+20保持
となっている。
この予後良好群/不良群と年齢、性別、初診時WBC数などは関連がなかった。予後不良群は有意に再発率が高く(HR 2.5/3.8)、EFSが低かった。しかし、再発例も一部レスキューされた結果か、UKALL97/99では低下傾向はあるもののOSには有意差がみられなかったが、UKALL2003では優位に低下いていた(96% vs 86%)。
UKALL97/99とUKALL2003の大きな違いの一つにMRDによるリスク層別化の有無がある。UKALL2003におけるMRDの結果を比べてみると、予後不良群ではMRD<0.01%でも≧0.01%でも予後良好群と比較して予後が悪かった。UKALLは各サブタイプごとにMRDのカットオフは異なるのではないかと提唱しており、high hyperdiploidyにおいては0.03%をカットオフと提唱しているが、同様に0.03%以上でも未満でも、予後不良群は予後不良であった。逆に、MRD<0.03%かつ予後良好群のhigh hyperdiploidyは全体の60%であり、この群は再発率4%、10年EFS/OSが95%/98%と顕著に良好であった。この群は真の予後良好群と考えられ、今後の治療のさらなる減量も可能かもしれない。逆に予後不良群においてはMRDがカットオフ以下でも予後良好群と比較すると予後不良であり、MRDの結果に左右されない新たな予後不良群の抽出ができたという意味では重要である。
UKALL2003では、EOI MRD<0.01%の場合にdelayed intensification blockを1回もしくは2回のランダム化試験を行っている。つまりDIが1回の群のhigh hyperdiploidyは最も強度が軽減された治療を受けたことになるが、予後良好群においては1回のDIでも良好な予後は維持されていた。これも今後の治療計画に重要なことだと思われる。
一方で予後不良群においては興味深い結果となっており、DIが1回/2回の再発率を見ると4%/13%と1回の方が良いという結果になっている。これはDIの治療は予後不良群にとっては効果がみられないという意味なのかもふくめて、さらなる検証が求められる。
EOI MRD≧0.01%群では、標準治療のDIが1回、2回、治療強化群の3つの治療方法のランダム化試験が行われており、予後良好群においては、標準治療と治療強化どちらの方法でも再発率に差は見られなかった。
他の遺伝子異常との組み合わせも解析はされているが、IKZF1欠失例もhigh hyperdiploidyでは少ない(全部で18例)ということもあり、これだけでは何とも言えない結果と思われる。
最後に、どれだけの割合で予後良好群を抽出できたかをCOGのdouble trisomyやtriple trisomyと比較してある。
UKALL予後良好群:80%
UKALL予後良好群+MRD<0.03%:60%
Triple trisomy:41%
Double trisomy:54%
このようにMRDとの組み合わせにおいても、UKALLの分類がより多くの予後良好群を抽出できていることがわかる。ただし、これはUKALLのデータでの解析結果であり、前述のとおり予後良好群の組み合わせにはコホート差があるということを考慮すると、アンフェアというか当たり前の結果なのかもしれない。逆パターンでも検証できると面白いのかもしれない。
Hyperdiploidyは予後良好とは言え、まだまだ解決するべき問題はたくさんあると言える。まず第一に、この分類は本当に全世界共通のものなのかという検証が、個々の臨床試験の過去のデータを用いて行う必要がある。世界共通の因子があれば非常に良いのだが、場合によっては各臨床試験が異なる分類を用いることもありえる。また、今後白血病の治療は、背景にある遺伝学的異常をもとによりテイラーメイド化していくことが予想される。UKALLの分類だけでなく、再発時に選択されやすいKRASやCREBBPなどの変異なども組み合わせて、治療はより細分化していく必要があるのかもしれない。ただし、その場合は全例にシーケンスなどを行う必要もあり、コストやマンパワーなど他の要素も考慮していく必要があるだろう。現状のサルベージ可能率を考えると、場合によっては一部の予後不良群も含めることを許容した広いくくりの予後良好群を規定し、全体としては治療強度を弱めつつも、治療の途中でより厳選されたMRD陽性例や再発(予備軍)例などの群に対して十分な資源を投入した解析やテイラーメイド医療を行うという、サルベージ治療をより重視した戦略もありえるかもしれない。