B-ALL

小児急性リンパ性白血病B-ALL/T-ALLの網羅的ゲノム解析

  1. 2754例の小児ALLをWGS/WES/RNAseqで解析
  2. ドライバー変異数は1例あたり4個程度と成人がんと変わらず
  3. Hyperdiploidでは染色体の倍化の後にUV関連の付加的変異が加わる一方で、iAMP21ではUV関連変異の後に染色体が増加する
  4. DUX4-RやKMT2A-Rサブタイプは、発現パターンや変異でさらに2つに細分化され、予後が異なるものの、FLT3などの標的治療の対象になりうる

次世代シーケンサーが登場し、各腫瘍に対する網羅的解析が可能となってからかなりの時間が経過した。初期は単一疾患の少数例のゲノム解析でNatureなどに掲載されていたが、解析能力や技術の発達もあり、2015年くらいからは検出したゲノム異常に対する機能解析なしにビッグジャーナルに掲載されることはなくなった。特に小児白血病のB-ALLの分野においては、新規ゲノム異常という観点からはこれ以上切り込めないレベルまで研究が進んでいる。

2022年に新しいB-ALLのサブタイプCDX2/UBTF B-ALLが報告されたが、これも全体のB-ALLの中の数%という重箱の隅をつついたもので、今後もこのようなレアなサブタイプの報告しか残されていないと思われる。そのため、一時期はビッグジャーナルを賑わせていた小児白血病の分野において、今までと同様の解析でこのような雑誌に掲載されることは極めて難しいといえる。

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そんな中、2754例という小児白血病の超巨大なコホートをWGS/WES/RNAseqで解析するという力技(+資金力)で、2022年にNature Geneticsに掲載されるに至った論文がある。タイトルは「The genomic landscape of pediatric acute lymphoblastic leukemia」である。

まず解析した症例数を確認してみると、B-ALLが2288例、T-ALLが466例となっている。WGSが768例、WESが1729例、RNAseqが1889例、SNPアレイが1808例とのことである。これだけのサンプル数を解析することは非常に大変だと思われる。コストも当然だが、これだけのデータ量を扱えるプラットフォームという観点からも、なかなか誰でもどこでもできるものではない。一方でこれらの解析方法については、基本的には今まで通りの方法を踏襲している。

まず、1Mbあたりの体細胞変異SNVを各白血病のサブタイプで比較している。B-ALLではKMT2A-Rが0.15と最も少なく、iAMP21が0.66と最も多かった。T-ALLでは0.28とTAL2が最も少なく、NKX2-1が0.55と最も多かった。

1症例当たりのドライバー変異の数の中央値は4個であり、成人がんでのドライバー変異数と同様であった。つまり、小児がんは変異は少ないと言われているが、Passenger変異が少ないだけで、腫瘍化に重要な変異数は成人がんと比較しても大きな差はないということになる。このドライバー変異は、B-ALLではコピー数変化:CNA(focal deletion)が多く、T-ALLではSNVが多くみられた。サブタイプ別のドライバー変異の数を見てみると、Ph-like(CRLF2/Other)やiAMP21が7個程度と多く、KMT2A-Rは2個と少なかった。B-ALLの2%ではドライバー変異がみつからなかったが、多くはHigh hyperdiploidyであった。T-ALLではTLX1/TLX3では8個程度、TAL1/TAL2が5個程度と少なかった。

変異Signatureの解析においては、既報のとおりETV6::RUNX1やETV6::RUNX1-likeにおいてはAPOBECパターンが目立ち、High hyperdiploidyやNear haploid、iAMP21ではUV(紫外線)パターンが目立っていた。酸化ストレス(ROS)パターンもPh-likeやPAXalt、TAL1などでみられ、特に20q/9p欠失例に関連していた。

2015年にNature Geneticsに報告されたHigh hyperdiploidyのゲノム解析の論文でも同様の解析はされていたが、検出したSNVの変異アレル頻度を調べることで、染色体の倍化と変異の獲得の順番を推定することができる。

【B-ALL】High hyperdiploidyのゲノム異常 B-ALL、High hyperdiploidyのWGS/WESを用いたゲノム解析RTK-RAS経路(KRAS/NRAS/FLT3/...

興味深いことに、High hyperdiploidyのUV関連の変異はすべて3本の染色体のうちの1本からしか検出されず、染色体倍化後に獲得されたものであると言える。一方でiAMP21においては複数の染色体でUV関連の変異が検出されることから、UV関連の変異が先に獲得された後に染色体が倍化した(breakage–fusion–bridge:BFBがおきた)ということが明らかとなった。

また、High hyperdiploidyにおいて、染色体の倍化が同時に起きているのか、それとも時期がずれているのかという疑問は長期にわたって議論されている。というのも、大部分の症例において、同じ染色体を倍化させた細胞が単一クローンとして見られる一方で、一部の染色体のみさらに倍化させた細胞集団をサブクローンとして保持している症例も見られるからである。High hyperdiploidyにおいて染色体数の異常を発生させるメカニズムを考えると、同時に一度に起きていると考えられるが、一部においてさらに染色体数に変化を持つクローンが発生するというシナリオが一番すっきりするのではないだろうか。

コンデンシン複合体の異常による有糸分裂の障害がhigh hyperdiploidy白血病をひきおこす High hyperdiploidyは赤道面への並びがうまく進まず、有糸分裂の前中期の遅れが生じるため、増殖速度が遅く、染色体の分離...

実際にUV関連の変異に限らずすべてのSNVを見てみると、8割を超える大部分の症例において、染色体倍化が変異が起きる前にすべてが完了している(VAFが0.3程度)ことから、これらの例においては多少の時間のずれはあるかもしれないが、ほぼ同時期に染色体数の変化は完了していると考えられる。一方で、1.4%程度の例において、変異がVAF0.3/0.6にきれいに分布していることから、先に変異が起きて染色体が倍化したと考えられた。残りの15%程度は、ほとんどがVAF0.3だが、一部の染色体においてのみVAF0.3/0.6の分布がみられた。つまり、前述のとおり、先に染色体が倍化した後に変異を獲得したものの、その後さらに一部の染色体のみ追加で倍化したというパターンと考えられた。これらのパターンが混在していることは、今までの報告に矛盾しておらず、High hyperdiploidyのほとんどの例において染色体の変化はほぼ同時に早期におこるということを裏付けている。

このUV関連の変異と染色体の変化の時期を考えると、やはり染色体の倍化は子宮内の胎児期におきていること、付加的変異は出生後に実際にUVによって引き起こされていることが推察され、High hyperdiploidyのは白血病化の予防にも重要な視点なのではないかと思われる。実際にUVへの感受性の低いEuropean系において、African系よりもHigh hyperdiploidyの発生率が高いことも報告されている。UVの血液細胞への影響という点においても、皮膚T細胞性リンパ腫(cutaneous T cell lymphoma; CTCL)でUV関連Signatureがみられることなどから、皮膚を貫通したUVが、染色体数が変化した前白血病細胞に影響を与えている可能性が十分考えられる。

また、CDKN2AとCDKN2Bは近接しており、この領域は多くのALLで欠失領域となるが、詳細な解析により、CDKN2B単独の欠失がほぼ見当たらないことが明らかとなり、INK4B(CDKN2B)ではなくINK4A/ARF(CDKN2A)の不活化の重要性を示している。

ヒストン遺伝子領域のCNAも近年注目されているが、B-ALLの約10%において6p22.2や6p21.1の欠失が検出された。特にiAMP21、near haploid、Ph-like、PAX5 P80R、ETV6::RUNX1において特に多かった。

個々の変異とサブタイプの関連性を見ていくと、
CREBBP→High hyperdiploidy、near haploid
SETD2→PAX5 P80R
SMARCA4→TLX3
Low hypodiploid→TP53(SomaticとGermline変異が半々)、RB1、IKZF2
などが特徴的にみられていた。

その他、今回新たにドライバー変異として検出したものに、タンパクのユビキチン化やSUMO化、RNA、cohesin複合体に関連する遺伝子のLoss of function異常があった。具体的には、UBA2やSAE1異常がETV6::RUNX1で見られていた。

次に、発現パターンをみてみると、High hyperdiploidyとnear haploidはほぼ同じパターンを示していた。その理由として、High hyperdiploidyで増加しやすい染色体と、Near haploidにおいて2本の染色体が残存しやすい染色体が類似しているため(特に10/14/18/21番染色体)、相対的な発現パターンが類似するのではないかという考察であった。個人的にもこの考察に賛同で、RNAseqデータの正規化において、各症例のTotal read数は同じであるという前提のもとでNormalizationを行うことが多い現状では両者の相対的パターンは同じになってしまうと考える。また、発現パターンが類似しているだけでなく、両者はともにCREBBP異常やRas経路の変異を有しているが、Ras経路変異の詳細を見てみると、High hyperdiploidyはNRAS/KRAS/PTPN11が検出されるのに対し、Near haploidではNF1と異なっていた。

既存のサブタイプをphenocopyする-likeサブタイプと既存のサブタイプの比較も行っている。ETV6::RUNX1とETV6::RUNX1-likeの比較では、
ETV6::RUNX1:TBL1XR1、BTLA::CD200欠失
ETV6::RUNX1-like:TF欠失(IKZF1、PAX5など)、ARPP21欠失
が違いとしてみられた。しかし、最も重要なのは、ETV6::RUNX1-likeの予後はETV6::RUNX1と比較して非常に悪いということだと思われる。

この論文ではCITE-seq(発現解析)とは多少異なるが、細胞表面の抗原でバーコードした細胞の変異をキャプチャーシーケンスして調べるシングルセル解析も行っている。これにより、腫瘍内のheterogeneityを調べることができる。しかし、結果は今までに知られている通りで、RAS系などシグナル伝達経路の変異はサブクローナルに存在し、同じ遺伝子でも異なる部位の変異が異なるサブクローンとして存在している、つまり、メインのドライバー変異のあとに起きる付加的異常であるということを示している。一方でT-ALLにおけるJAK1とJAK3は同じ細胞に起きているということも示しているが、これも既報のとおりで特に新しい発見ではない。

新しい発見の一つに、DUX4-RやKMT2A-Rサブタイプをさらに発現パターンで2群に分類したことがあげられる。このような細分化はある程度の数を集めないとできないので、このような大型な解析論文で重要なことである。この2群は発現パターンだけでなく、変異パターンでも予後でも分けられる点が重要である。
DUX4-a:ERG、TBL1XR1
DUX4-b:EFS不良(OS変わらず)、NRAS、IKZF1、KMT2D
KMT2A-a:PAX5
特に、DUX4-aとKMT2A-aではNFATC4の発現が高い(preB/Immature B)のに対し、DUX4-bとKMT2A-bではCEBPAやFLT3の発現が高く(pre-pro B)、分化段階の違いを示しているものと考えられる。また、FLT3高発現に対してはFLT3阻害薬の適応が可能かもしれない。

最後に、ゲノム異常の観点から各白血病のサブタイプの予後を比べている。既報のとおりIKZF1plusの予後は悪かった。

IKZF1plusとMRDの組み合わせは極めて予後不良な小児B-ALLの一群を定義する IKZF1plusの定義:IKZF1の欠失に加えて、CDKN2A欠失・CDKN2B(ホモ欠失のみ)・PAX5欠失・PAR1領域の異常...

興味深いのは、予後良好のETV6::RUNX1のなかでTBL1XR1異常を持つものが優位に予後不良(5年OS:89% vs 99.6%)であったということである。多変量解析でも残っており、この異常を診断時に検出する意義は非常に大きいと考えられる。というのもこの異常がないとほぼ長期生存が可能という超予後良好群と言えるからである。

同様に大きな意義があると言えるのが、High hyperdiploidyのSETD2異常の有無で、これも異常があると優位に予後不良(5年EFS:46.9% vs 94.9%)である。増加した染色体数による分類と組み合わせて解析するとより面白いかもしれない。

増加した染色体の番号の組み合わせでHigh hyperdiploidy B-ALLにおける予後良好群と不良群を抽出 UKALL97/99とUKALL2003のretrospective解析予後良好群:(1)+17+18保持(2)どちらか保持、かつ、...

他にも、CDKN2A異常を持つTCF3::PBX1の予後不良や、PHF6異常を持つTAL1 T-ALLが予後不良というのも臨床的価値のある結果と思われ、再現性などの確認をしたうえで、臨床試験に組み込んでいくべきだと思われる。

非常にボリューム感たっぷりの論文で、面白いことがたくさん書いてあるのだが、個人的にはこのような複数の疾患をごちゃ混ぜにして解析数を増やすような方法はあまり好きではない。というのも、一つ一つのサブタイプについての考察が、文字数制限の影響もあり非常にコンパクトとなっており、さらっと読んだだけでは何が新しい発見だったのか、どこが面白いポイントのかが非常にわかりにくいからである。もちろん、情報量は非常に豊富であるため、サプリなどの図表がかなりしっかりしているのは素晴らしいことではある。しかし逆に言えば読み手がサプリなどの図表をしっかりと見て解釈する必要があり、読み手の時間的余裕や知識量に非常に依存した内容となっている。実際に、読みながらやや物足りなさを感じた部分で、しっかりサプリまで見に行くと結構面白いことが解析してあったりもした。だからこそ、大事な情報が隠れている部分も多くあり、もったいない気がしてならない。

もちろん、このように複数疾患を組み合わせないと見えてこないこともあるとは思うし、一つの論文にすべてが詰まっていると今後の引用や参照という点では非常に便利で使いやすいというメリットはある。とはいえビッグジャーナルに掲載せるために情報量を増やすというようなやり方は、自分のような一般の読み手としては、できれば今後は流行って欲しくないなと思いながら読んだ論文であった。ただ。レビュー+といった既存の枠組みからはなれた論文と思えば別によいのかもしれない。

Brady SW, Roberts KG, Gu Z, et al. The genomic landscape of pediatric acute lymphoblastic leukemia. Nat Genet. 2022;54(9):1376-1389. doi:10.1038/s41588-022-01159-z

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