High hyperdiploid ALLは日本語で高二倍体急性リンパ性白血病とも呼ばれる。このサブタイプは小児急性リンパ性白血病で最も多く診断されるB-ALLのサブタイプである。コホートによって異なるが、おおむね小児B-ALLの25-30%を占める。予後も極めて良好で再発率も極めて低いが、診断される絶対数が多いため、再発する症例も数としてはまだ多くみられる。そのため、このサブタイプを理解することは非常に重要である。
High hyperdiploidyは、
(1)染色体数が51から67であること、もしくは
(2)DNA index≧1.16
と定義されている。
しかし、この2つの項目は一致しておらず、DNA index=1.16は、染色体数53-54程度に相当するため注意が必要である。そのため、臨床試験などでHigh hyperdiploidyというサブタイプをリスク分類の項目とするのであれば、臨床試験におけるHigh hyperdiploidyの定義を明確にする必要がある。
好発年齢は3-5歳であり、小児白血病の好発年齢にも一致する。ETV6::RUNX1などの他のサブタイプでも同様であるが、hyperdiploidyを有する細胞は、子宮内の胎児期にすでに存在していると考えられており、実際に出生時の臍帯血から検出されたり、双子の白血病の解析などから、白血病と診断されるかなり前に、染色体数の変化は起きていることが明らかになっている。
増加する染色体の種類はランダムではなく、4番・6番・10番・14番・17番・18番・21番・X染色体が3本になることが多い。この染色体増加のメカニズムとしては、コンデンシン複合体の異常をきっかけとする染色体の濃縮不全とAurora BキナーゼやSurvivinの分布異常が、紡錘体チェックポイントの機能不全を起こし、染色体分離の異常をもたらすと考えられている。つまり、染色体数の変化はほぼ同時に一度におきるという考えが一般的である。

染色体の増加はランダムでおこるわけではない、ということから、この増加した染色体の組み合わせを用いて予後を予測する試みが行われてきた。まず、増加した染色体の数が多ければ多いほど予後が良好もしくは不良となる傾向はみられない。
2000年ころより+4/+10のdouble trisomyや+4/+10/+17のtriple trisomyという概念がChildren’s Oncology Group (COG)から提唱されてきた。これは、これらの染色体番号がすべて増加していると、予後が良好な群である、という意味で、実際にtriple trisomyは2005年から2010年にかけて行われたAALL0331試験で検証され、予後が極めて良好であることが再確認された。
一方で、UKALLのデータ(UKALL97/99とUKALL2003)を用いて同じような検証を行った報告も2021年に発表されている。その結果、
※予後良好群(約80%):MRD<0.03%さらに予後良好
(1)+17かつ+18保持
(2)+17または+18で、+5もしくは+20がない
※予後不良群(約20%):MRDによらず再発率が高くEFSが低い
(1)+17も+18もない
(2)+5または+20保持
ということがわかった。

これらの結果は、各臨床試験によって異なる可能性もあるため、導入前にはきちんと過去のデータを見て検証しておく必要もある。
さらに、染色体数とは関係なく、付加的異常として、SETD2異常を有する症例は、極めてEFSが低い(46.9% vs 94.9%)ことが明らかになっている。これも臨床試験において適切なリスク分類を行う上で、極めて重要なことであると考えられる。
High hyperdiploid ALLにおいて検出される遺伝子変異をみてみると、Ras経路(KRAS/NRAS/FLT3/PTPN11)やヒストン修飾(CREBBP/WHSC1/SETD2)に関連する遺伝子異常が多くみられる。これらは排他的パターンを取らず、両方を持つ場合もある。

特にCREBBP変異は、種を超えて保存されているHATドメインの失活を中心とした異常であり、初発時だけでなく再発時に獲得されるなど、白血病の進展にも関連していると言われている。
High hyperdiploid ALLでみられる遺伝子変異はC>Tパターンが多くみられ、mutational signatureとしてはSignature 7のUV紫外線パターンが目立っていた。興味深いことに、この紫外線関連の変異のすべてが3本以上ある染色体のうちの1本でしか検出されなかった。つまり、この紫外線関連の変異は染色体数が倍化した後に獲得したと考えられる。
このように、検出された変異が3本ある染色体のうち、何本から検出されるかということを調べると、染色体が倍化したタイミングと、変異を獲得したタイミング、そしてそれらの間隔を推測することが可能となる。
これらを検証して、High hyperdiploid ALLが形成されるシナリオを推測した結果、以下の3つのパターンがあることが分かった。
(1)Synchronous early(85%):染色体数変化→付加的変異
(2)Synchronous late(1%):遺伝子変異→染色体数変化
(3)Asynchronous gain(15%):染色体変化→付加的変異→一部の染色体(全体/armレベル含む)のみ追加で倍化

この結果は、ほぼすべてのHigh hyperdiploid ALLにおいて、染色体数の変化が先に起きていることが明らかになった。この染色体の増加は出生前におこること、UV関連の変異が付加的に追加されるということに矛盾しない。実際に、ヨーロッパ人とアフリカ人では、UVへの感受性の低いヨーロッパ人の方が白血病を発症しやすいという事実もこの結果を裏付けている。
これらの結果を総合的に考えると、出生時にすでに染色体数の変化をもった細胞を有していたとしても、付加的なUV関連の変異を獲得するリスクを減らすことで、白血病に至ることを予防することができる可能性があることも意味しているのではないだろうか。
High hyperdiploid ALLの発現パターンを調べてみると、そのパターンはNear haploidに非常に類似していることが明らかとなった。その理由としては10番・14番・18番・21番というHigh hyperdiploid ALLで獲得しやすい染色体と、Near haploidで失いにくい染色体が似ているからではないかと考えられている。ただし、染色体数に応じた遺伝子発現量が確認されているため、実際に白血病細胞内で同じパターンを示しているかどうかは不明である。特にRNAseqを用いた解析では、総リード数は各サンプルで同じであるという仮定のもとで正規化を行うことが多いので、真実とは異なる可能性は否定できない。