- AYA世代の女性に特徴的にみられる高リスクB-ALLの新しいサブタイプ、CDX2/UBTF ALLの発見
- CD10陰性でcyIgM陽性のproBパターンを示す
- エンハンサーハイジャックによるCDX2高発現とUBTF::ATXN7L3融合遺伝子の両方を同時に有する
- 他のサブタイプとは異なる特異的な発現プロファイルを有する
2010年代に次世代シークエンサーによる大量解析が始まり、さまざまな腫瘍のゲノム異常が明らかになってきたが、血液腫瘍、特に白血病の中では、小児B-ALLを中心に、これまではB-Othersと言われていたRT-PCRやG-band解析などでは検出できない群を中心に、DUX4・MEF2D・ZNF384・PAX5など次々と新たな遺伝子異常を持つサブタイプが同定されてきた。
直近の2019年にSt. JudeのMullighanラボから報告された約2000例のRNAseqの大規模解析の結果(Nat Genet. 2019 Feb;51(2):296-307)、新たに既知のサブタイプに類似するもドライバー異常のない-like集団(ETV6::RUNX1-likeなど)や1つのアミノ酸変異が特徴的な集団を作るPAX5 P80RやIKZF1 N159Yなどのサブタイプなどを検出し、残るB-Othersの群は次世代シークエンサー時代の前の30%以上からわずか6.4%にまで激減した。
はたしてこの残るわずかな6%のB-ALLは共通の遺伝子異常を持っているのか、それとも様々な異常をもつヘテロな集団であるのか、しばらくは不明であった。その理由として、あまりにも稀であるため解析にさらなる大規模なサンプルを必要とすることや、RNAseqでは解析不能な異常が想定されていたが、今回この残るわずかな集団の中に、若年成人(AYA世代)の女性に多くみられる高リスクな一群を同定したという論文が2022年にほぼ同時に3報も報告された。
・Blood. 2022 Jun 16;139(24):3519-3531. (今回紹介する論文)
・Blood. 2022 Jun 16;139(24):3505-3518.

・Leukemia. 2022 Jun;36(6):1676-1680.
今回はその中の一つ、St. JudeのMullighanラボから報告された、先ほどの2019年の論文の延長ともいえる論文をとりあげる。タイトルは「Enhancer retargeting of CDX2 and UBTF::ATXN7L3 define a subtype of high-risk B-progenitor acute lymphoblastic leukemia」で、Bloodに掲載された(Blood. 2022 Jun 16;139(24):3519-3531.)。
本論文では、先行研究で残ったB-Others6.4%の中の6例が類似した発現パターンを有していることに注目し、成人を含む様々なコホートより同様の症例を集めてきた。この集団に対してRNAseqとWGSを組み合わせた解析を行い、2つの特徴的な異常を有していることを発見した。
1つは17番染色体の部分欠失により引き起こされるUBTF::ATXN7L3という新規融合遺伝子で、2つ目は13番染色体上にあるPAN3-FLT3周辺の欠失により引き起こされるCDX2の異常高発現である。これらの2つの異常をすべての症例が有していたことから、この群をCDX2/UBTFと呼んでいる。また、これらは両者とも染色体転座ではなく、同一染色体上の極めて短い領域の欠失によって引き起こされている。欠失の両端にRSS類似部位があることや、数塩基の挿入が起きていることから、RAGの異常な働きが原因であると推測されている。
PAN3-FLT3周辺の欠失では、2020年に類似の微小欠失が報告されているが(Blood. 2020 Aug 20;136(8):946-956)、過去の報告ではこの欠失はFLT3の手前で終わっており、PAN3のエンハンサーハイジャックによってFLT3が高発現になるというシナリオが示されている。
一方で、CDX2/UBTF ALLではこの欠失がFLT3のExon 1まで続いており、結果としてFLT3は低発現になっている。しかし、そのさらに奥にあるCDX2がエンハンサーハイジャックによって高発現になるということを、HiChIPと呼ばれるChIP-seqとHiCを組み合わせたような技術で、この両者にループがあることを見事に証明している。
その他の異常としてPAX5の微小欠失やChr1の増幅なども検出されており、やはりRAGの異常な働きが関連しているようである。
2つの遺伝子異常が同時にあるということは非常に興味深いが、変異頻度VAFからCDX2の高発現が先に起きていると推測している。CDX2はマウスモデルでMDSやAMLになることが示されているが、これにUBTF::ATXN7L3が加わることでPhenotypeが変わるのかもしれない。この報告はゲノム解析どまりで、その後の実験的な証明は行われていない。UBTFはAMLの再発にも関与しているが、リンパ系のALLにも関与しているというのも興味深い。この両者の異常がどのようなメカニズムでB-ALLに至るのかは気になるところである。
この論文では臨床的と関連した部分が、3つの報告の中では弱いところではあるが、他の報告と同様に、AYA世代の若年女性(中央値35歳)に多く(2.2%)、再発や寛解導入後のMRD陽性率が高い(45%)という高リスクの特徴を有している。また、CD10陰性でcyIgM陽性という少し特殊な免疫表現型を有していることも診断時に有用だろう。NTRK3の高発現もあるようだが、臨床的にNTRKの阻害薬などの対象になるのかどうかまでは触れられていない。PDXなどのモデルで今後実証されると面白いのかもしれない。
このCDX2/UBTF ALLは2021年に同じくBloodで報告されたCDX2高発現のALLの一群(Blood. 2022 Mar 24;139(12):1850-1862.)とほぼ一致すると考えられるが、当時は2つの共通の遺伝子異常については同定されていなかった。やはりNon-coding領域の異常の検出は簡単ではないのかもしれない。次世代シークエンサーもWGSが多用されるようになり、さらにHiCやHiChIPなど、クロマチン構造の異常を含めて解析する時代になってきている。残るB-Othersの数%に、新たな遺伝子異常をもつ集団があるのかどうか、それが現時点の解析手法で検出可能なのかはよくわからないが、時代と共に新たな解析手法がでてきて、より白血病の遺伝子異常が解明されていくことを期待している。