- ETP-ALL、AML、M/T MPALの一部に、共通の特徴的な発現パターンを呈する一群が同定された
- この群はBCL11B再構成やエンハンサー部位の増幅を共通のゲノム異常として有していた
- BCL11B再構成は、未分化造血細胞で発現している遺伝子のエンハンサーをBCL11B遺伝子の近傍に配置させ、エンハンサーハイジャックの機序でBCL11Bの高発現をもたらす
- BCL11B ALLの起源は胸腺に流入する前の未分化造血細胞と考えられる
近年の次世代シーケンサーの技術の発展により、ゲノムの変異や転座といった直接的なゲノム異常だけでなく、3次元レベルのクロマチンのループ構造の変化を網羅的に調べることが可能になった。
特に活性化した遺伝子がどのエンハンサーを使って発現をもたらしているのか、というところを視覚的に確認することを可能としたのが、ChIP-seqとクロマチンの近接部位(ループ構造)を検出するHiCを組み合わせた『HiChIP』とよばれる技術である。
HiChIPのメカニズムを簡単に説明すると、HiCと同様に、ループ構造を構築するタンパクをホルマリンで固定し(クロスリンク)、クロスリンク近傍部位での切断・ビオチン付き架橋後にCovarisなどで断片化し、ChIPの様に活性化マーカーであるヒストンH3K27のアセチル化抗体などで沈降したものを、ビオチンで濃縮回収してシーケンスするものである。
ArimaなどがHiChIPのキットを販売しており、より容易なライブラリーの作成が可能になってきている。抗体もH3K27acだけでなく、CTCFなどのcohesin複合体に対する抗体でもHiChIPは可能になっている。
要するに、この技術を用いると、活性化したエンハンサーが、遺伝子のプロモーターにループしていることを視覚的に検出することが可能となるため、ゲノム上の異常構造がもたらす影響をダイレクトに示すことができる。2022年にはB-ALLのCDX2/UBTFサブタイプにおけるCDX2の活性化も、HiChIPによって離れた場所にあるPAN3とFLT3の欠失の影響でもたらされることが明らかになっている。

同様にWGSとHiChIPを組み合わせて、異常なループ構造によるドライバー遺伝子BCL11Bの活性化を、T-ALL、M/T MPAL、AMLなどで検出したことが2021年にCancer Discoveryに報告された。タイトルは「Enhancer Hijacking Drives Oncogenic BCL11B Expression in Lineage-Ambiguous Stem Cell Leukemia」である。
まず、B-ALL、T-ALL、AML、MPALを含めた2000例をこえるRNAseqデータの解析から話はスタートする。ドライバーがはっきりしており、発現パターンも特徴的なサブタイプを除いて解析を進めていくと、ETP-ALL、AML、T/M MPALの一部(30%程度)が共通のクラスターを作っていることを見つけた。
この集団はcyCD3+、CD34+、CD117+でCD1aやsCD3・CD5・CD8は陰性であった。MPOを除くとETP-ALLの基準を満たしており、非常に未分化な一群であることがわかる。続いてWGSで構造異常(SV)を解析した結果、全例がBCL11Bの再構成または上流の増幅のSVを有しており、アレル特異的なBCL11Bの発現を伴っていた。
また、このBCL11Bの再構成では、T-ALLで多くみられるTLX3::BCL11Bは全く検出されなかった。このTLX3::BCL11BではBCL11BのエンハンサーがTLX3の上流に再配置され、TLX3の異常高発現をもたらすが、一方でBCL11Bの発現は失う。つまり、今回検出したBCL11B再構成は、既知のTLX3::BCL11Bとはメカニズムが全く異なることがわかる。これはTLX3 T-ALLの多くがより分化したearly cortical T cellの分化段階にあることからも、違いがはっきりとしている。
また、このBCL11B再構成のほかに、この未分化な一群ではFLT3-ITDが80%に検出され、BCL11Bの発現と共に重要なドライバーであることが示唆された。成人のデータではあるがBCL11B再構成を持つ集団はOSが約10年と予後が良好であった。
続いてBCL11B再構成の相手を見てみると、chr6のARID1Bやchr8のMYC(BENCやN-Me)などのエンハンサーと再構成していた。BCL11Bは未分化な造血細胞では発現は見られず、T細胞の分化がある程度進み、他の系統への分化能を失うcommitmentが終わるころに発現が始まる。つまり、ETPのような未分化な細胞ではまだBCL11Bは発現しておらず、この集団におけるBCL11Bの発現が異常であることがわかる。
一方で、再構成の相手であるエンハンサー部位はCD34+造血細胞、または未分化胸腺細胞においてH3K27acのChIP-seqで活性化している部位であった。このことから、BCL11Bの再構成はエンハンサーハイジャックによって異常なBCL11Bの発現をきたしていることが予想された。これをH3K27acのHiChIPを用いて検証したところ、予想通りこれらのエンハンサー部位とBCL11B遺伝子はループ構造を形成しており、この異常ループはBCL11B再構成を持たない株においては検出されなかった。さらに、sequential RNA–DNA FISHを行い、このBCL11Bの異常発現がcis(同じアレル)で起きていることを確認している。当然この異常ループはTLX3::BCL11Bでは検出されなかった。
一方でBETA (BCL11B enhancer tandem amplification)と名付けられたBCL11Bの上流の増幅においては、CD34+造血細胞でわずかに活性化しているエンハンサー部位が14コピー以上に増幅していることをlong read DNA sequencingで確認している。このエンハンサー部位の増幅は、本来は不活化状態である近傍のThymoDとよばれるBCL11Bの活性化に重要なlncRNAを介してBCL11Bの異常発現をもたらしていることが、HiChIPによって明らかになった。
これらの結果から、BCL11Bの異常発現はCD34+造血細胞/HSPC由来のエンハンサー/スーパーエンハンサーからもたらされていることが明らかになった。そこで、BCL11B再構成白血病が、実際にHSPC様の発現パターンを有していることをRNAseqの発現データの解析で確認し、さらにscRNAseqとscATACseqを用いて、HSPC様の発現パターンを有するこれらの白血病の集団がlong-term HSPCに準じたクロマチン構造を有していることも確認した。また、BCL11Bの発現量とHSPC様のパターンは比例しており、改めてBCL11Bの異常発現がドライバーであることを示していた。
他にもBCL11BのChIP-seqにより、ドライバーの下流遺伝子の検出も試みており、GATA2などがその一つとして挙げられている。
BCL11B再構成を有するETP-ALL、AML、T/M MPAL検体のscRNAseqの解析から、共通のBCL11Bの発現を持つ白血病細胞の中に、CD3E+とMPO+の集団がいることがわかり、結果としてBCL11B再構成を伴う白血病では、これらの系統が混在し、免疫表現型では分類が難しいことを示唆している。
BCL11Bがドライバーであることは、臍帯血由来のCD34+造血細胞にBCL11Bを強制発現させる実験からも検証している。遺伝子導入96時間後の解析で、CD3やIL7RなどのT細胞系の遺伝子の発現がみられ、逆にMPOやLYZ・SPI1などの骨髄系の遺伝子の発現は低下していた。つまり、BCL11Bの異常発現は、胸腺による刺激を必要とせずにT細胞系の分化をもたらし、骨髄系への分化を抑制していることを示唆している。この結果は、MPOの発現は見られず、cCD3+がBCL11B導入細胞のみに見られたこと、FLT3-ITD共発現ではさらに増強していたことでも確認している。
最後にマウスのHSPCを用いてcolony forming assayを行ったところ、BCL11B単独でもコロニー形成能を呈していたが、BCL11BとFLT3-ITDを同時に導入した場合はさらに増強していた。以上より機能的にもBCL11Bの異常発現は、幹細胞の機能を維持させつつ、HSPCをT細胞系の分化にシフトさせることを示しており、BCL11Bがこのグループの白血病のドライバーであることを支持している。
この報告で重要なことは、ETP-ALLとT/M MPAL、そしてAML(M0)の30%程度が、共通のサブタイプの非常に未分化な白血病であるということである。つまり、診断時のフローサイトメトリーでのT-ALLだとかAMLという診断よりも、ゲノム異常を中心とする分類の重要性が高いことを意味している。現状では、同じBCL11B再構成ALLでも、T-ALLと診断された患者とAMLと診断された患者は異なる治療が行われている。より分化したT-ALLやAMLではフローサイトメトリーによる診断、治療が簡便かつ迅速でよいと思われるが、より未分化な白血病の場合は、系統を超えて共通の遺伝子異常の基盤を有している場合があるため、これらの中に共通のサブタイプを有する集団がいることを認識し、正しく診断、そしてその集団ごとに共通の治療を行っていくことが良いと思われる。
これはBCL11B再構成に限らず、ZNF384再構成ALLにおいても同様であり、こちらはB/M MPALとB-ALLとしての表現型を示す。やはりこれも未分化な細胞を起源としていると考えられている。

将来的に、テイラーメイド医療という意味で、ゲノム異常も組み合わせたより複雑な診断が必要になっていくことが予想されるが、その中でもゲノムによる診断を必要とする集団の一つがこのBCL11B再構成ALLになることは間違いないだろう。