ALAL

MPALのゲノム異常と白血病の起源

  1. T/M MPALとB/M MPALは遺伝学的に全く異なる
  2. ZNF384再構成を伴うB-ALLとB/M MPALは同じゲノム異常を持つ一つのサブタイプと考える
  3. ETP-ALLとT/M MPALは類似のゲノム異常を有する
  4. MPALの起源はHematopoietic progenitorではあるが、特定のゲノム異常の蓄積が系統を決定しているわけではない

大部分の小児白血病はImmunophonotypeによってB-ALLとT-ALLに分類され、それぞれのタイプに合わせた治療を行うことで予後が改善されてきた。今後は免疫療法などの登場で大きく変わる可能性はあるものの、小児白血病の治療も大きな外枠はある程度固定されてきており、診断がきちんと行われ、初診時に大きな合併症がなければ治療プロトコールに沿った治療を行うことで良好な予後をえることができる時代になってきている。

そんな中、非常に稀ではあるものの、標準的な治療法が確立していない白血病の診断がなされた場合、どのように治療していくべきか、非常に頭を悩ませることになる(ALL型かAML型かそれ以外か)。そのひとつが、ALAL(Acute Leukemia of Ambigous Lineage)であり、B細胞系・T細胞系・骨髄系の複数の抗原を発現するMPAL(Mixed Phenotype Acute Leukemia)が含まれる。MPALは小児白血病の1-3%程度といわれており、さらにB/M MPAL、T/M MPAL、KMT2A-R、BCR-ABL、NOS (Not otherwise specified)に分類される。NOSには遺伝学的異常では分類不能なB/TやB/T/Mなどが含まれるが、これらは極めてまれである。

このような系統がはっきりしない、複数系統にわたる白血病の根源、起源は極めて幼弱な血球系細胞であると予想されるが、それらがどのようにして複数の系統に分化した白血病に至るのかというところは疑問であった。変異の蓄積が白血化や分化の異常・系統の決定にかかわっていると考えることも可能であるが、MPALはまれなサブタイプであり、包括的なゲノム解析もなされていなかった。このような点に踏み込んだのが今回のNatureに2018年に報告された論文で、タイトルは「The genetic basis and cell of origin of mixed phenotype acute leukaemia」である(Nature. 2018 Oct;562(7727):373-379.)。

まず筆者らは159例ものALALを集め、Central reviewを行うことできちんとWHO分類の診断基準を満たす115例をその後のゲノム解析に回している。やや男性に多いというのは他の白血病と同様である。約70%がT/M MPALもしくはB/M MPALで、KMT2Ar MPAL(乳児に多い)やBCR-ABL1 MPALが残りの20%程度を占めていた。これらのMPALのImmunophonotypeは多様で、2-3系統両方を同時に発現するMPALだったり、一つの細胞が同時に複数系統の発現を持つのではなく、複数の系統の集団が同時に混在しているMPALだったり、様々なパターンがみられていた。予後も考えられていた通り、T/M MPALで5年OSが56%程度、B/M MPALで59%程度であった。

ゲノム解析は90%程度のサンプルにWES/RNAseq/SNP arrayを行い、約半数にWGSも行っている。T/M MPALではFLT3の活性化以外に全例で何らかの転写因子に関連した遺伝子に変異が検出され、WT1, ETV6, RUNX1, CEBPAで80%を占めていた。CEBPAを除くこれらの変異パターンはETP-ALLで見られる異常に非常に似ている。ETP-ALLが異常なStem/Myeloid系のマーカーが陽性であることからも、両者はともに「非常に幼弱な白血病」という大きなグループに属していると考えられる。T/M MPALではややNOTCH1変異が少ないというのも興味深い。T/M MPALでは他に、BCL11Bの転座やETV6の転座なども検出されており、前者は2021年にBCL11B再構成ALLとして報告されている。

一方でB/M MPALでは約半数にZNF384再構成が検出されている。これはB-ALLにもみられる異常であり、発現パターンについてもZNF384再構成を持つものは、両者ともに酷似しており、鑑別不能であることが明らかになった。つまりETP-ALLとT/M MPALがひとつのスペクトラムであると考えられたように、ZNF384 B-ALLとZNF384 B/M MPALは同じスペクトラムの白血病であると言える。実際にZNF384 B-ALLでは骨髄系マーカーが陽性になっていることが多い。変異パターンもKDM6Aの異常がMPALで多いこと以外は両者は類似していた。

ここからがこの論文の面白いところであるが、複数の系統の集団が混在したMPALの検体をCD19陽性(B細胞系)と陰性、cyCD3陽性(T細胞系)と陰性、MPO(骨髄系)陽性と陰性の集団にソートし、それぞれの系統の集団でどのような変異を共通して持っているか、どのような変異が特異的に検出されるかを検討している。驚くことにMPALでは、系統が陽性の集団でも陰性の集団でも同じ変異パターンを有しており、付加的な変異が系統を分けているわけではないことが明らかになった。

さらに筆者らは、どうように複数の系統の集団が混在したT/M MPALの白血病細胞を、先ほどと同様に系統の陽性と陰性の集団(CD7+CD33-、CD7-CD33+、CD7-CD33-)にソートし、それぞれの集団を別々のマウスに移植し、MPALがどのように再現できるのかを調べる非常に面白い実験をしている。T/M MPALでCD7+CD33-のT細胞系の集団とCD7-CD33+の骨髄系の集団の両方から、なんとこれらの2系統の集団を持つT/M MPALが再現されたのである。

これらの結果からMPALの起源を推測している。系統には可塑性があることや、変異パターンが系統が異なる集団で共通していたことから、MPALの起源は非常に幼弱な造血前駆細胞と考えられる。筆者らはさらに患者検体から成熟したNK細胞やT細胞、幼弱なHCSやMPP、GMP、MLPなどを分離し、同じゲノム異常を有しているかを詳細に検討している。その結果、B/M MPALとは系統の異なるNK細胞やT細胞からはゲノム異常は検出されなかったが、一部のHSCやMPP、MLPなどややB細胞系や骨髄系に分化したProgenitorからは同じゲノム異常が検出された。つまり、ゲノム異常の観点でみるとMPALの起源はHSC付近ということになり、そこから分化できる系統に分化した白血病を呈したものがMPALということになる。

移植実験の系統の可塑性を考えると、脱分化的なことが起きているのか、それとも一時的に系統のマーカーの発現をもつHSC様のようなものが存在するのか(Wave的発現?)、脱分化なしで系統の入れ替わりが可能であるのか、様々な疑問は残るが、B/M MPALからTやNKなどさらに他の系統に広がっていくわけではなさそうなので、ある程度将来が決まったHSC様の分化段階ということなのかもしれない。治療をする側としては非常に難しいMPALも白血病の起源、造血の流れなどを考えると非常に奥深いものを感じる。

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