B-ALL

IKZF1plusとMRDの組み合わせは極めて予後不良な小児B-ALLの一群を定義する

  1. IKZF1plusの定義:IKZF1の欠失に加えて、CDKN2A欠失・CDKN2B(ホモ欠失のみ)・PAX5欠失・PAR1領域の異常(CSF2RAとIL3RAの欠失またはCRLF2融合遺伝子)のいずれかを持ち、かつERG欠失を伴わないもの
  2. IKZF1plusかつMRD-IR/HRは5年累積再発率が60%だったが、MRD-SRでは6%であった
  3. IKZF1plusはAIEOP-BFMのレトロ解析でB-ALLの6%程度で、再発の25%をしめていた

B-ALLの予後因子として古くから知られているものに、乳児白血病およびKMT2A(MLL)再構成、BCR-ABL1などがあるが、近年の診断技術の発達により、現在ではMRDが最も大きく予後に影響する因子として臨床試験のリスク層別化に組み込まれている。

ゲノム解析の進歩によって、上記に加えて様々な予後因子が提唱されつつある。その中の一つはIkarosとも呼ばれるIKZF1遺伝子の欠失であり、Ph陽性B-ALLやPh-like B-ALLなど予後の悪い白血病に多く見られる。一方で、予後が比較的良好といわれるERG欠失を伴うB-ALLにもIKZF1欠失は見られる。ゲノム解析技術も発展してきていることから、IKZF1欠失を伴う群の中で、より大きく予後に大きく影響を与える群を、付加的なゲノム異常を組み合わせることで抽出できないか、という問題に取り組んだのがこの論文である。タイトルは「IKZF1 plus Defines a New Minimal Residual Disease-Dependent Very-Poor Prognostic Profile in Pediatric B-Cell Precursor Acute Lymphoblastic Leukemia」で、2018年にJCOに報告された(J Clin Oncol. 2018 Apr 20;36(12):1240-1249.)。

対象はAIEOP-BFM ALL 2000の臨床試験に登録されたB-ALLの患者で、German cohortの991名をDiscovery cohort、Italian cohortの417名をValidation cohortとして解析している。

ちなみに本試験でのMRDリスク分類は以下のようになっている。
SR:Day 33とDay 78で両方とも陰性(10-4以下)
IR:SRとHR以外
HR:Day 78に5×10-4以上のMRD

ゲノム異常の解析は基本的にはMLPAを用いており、IKZF1, PAX5, ETV6, RB1, BTG1, EBF1, CDKN2A, CDKN2B, p22.33/Yp11.31 (PAR1:CRLF2/CSF2RA/IL3RA) 領域を調べている。CRLF2領域のプローベのRetentionは、CRLF2融合遺伝子に伴うものとしている。ERG領域に関してはMLPAではなく、マルチプレックスPCRで欠失を判定していることに注意したい。というのも、ERG欠失の精度をより高く判定できるアンプリコンシーケンスと比較すると、ERG欠失の検出率はやや劣っていたからである。MLPAも同様にサブクローンの検出力は劣るので、最も重要なIKZF1plusの定義は、基本的にはメジャークローンの検出で行われていると考える必要がある。

結果は非常にわかりやすい。IKZF1plusはMRDのリスク分類と組み合わせることで、小児B-ALLの非常に強力な予後不良子であることが明らかになった。IKZF1plusの群で、MRD-SRでは5年EFSが94%と非常に良好なのに対し、MRD-IRおよびMRD-HRではそれぞれ40%、30%と非常に不良であった。5年CIRもMRD-SRでは6%なのに対し、IRおよびHRではともに60%と非常に再発率が高い結果であった。これらの結果はイタリアのデータを用いたValidation cohortでも再現されている。

IKZF1plusはB-ALLの6%程度の頻度で検出され、再発の25%をしめていた。再発の多くはMRD-IR群であったことから、今後の治療強化(または適切な層別化)が必要な群であるといえる。一方でMRD-HR群(IR群も含めて)については治療強化というより免疫療法への移行もしくは組み合わせが重要となっていくことになる。具体的にはBiTEと呼ばれるCD19に対するモノクローナル抗体であるBlinatumomabやCAR-Tなどがオプションとなるのだろう。

昨今の話題として、生殖細胞Germlineのバリアントもしくは変異/異常と白血病(発癌)の関連性が重要用視されてきている。IKZF1plusにおいて、GATA3のバリアントであるrs3824662が濃縮されていた(ヘテロバリアントが約2倍、ホモバリアントが2-4倍)。このバリアントはPh-like B-ALLに多いと言われていたが、2022年にこのバリアントとCRLF2の発現異常の関連性が報告されており、納得できる結果である。

さて、IKZF1plusは確かに極めて予後不良な群を抽出していると言える。しかし、先ほど少しふれたように、この試験ではMLPAまたはPCRを欠失の検出に用いており、サブクローンの検出精度という点において多少の懸念が残る。

まず第一に白血病の再発には様々なパターンがあるものの、初回治療に抵抗性を持つサブクローンから派生して再発に至ることが多いということである。IKZF1plusは再発率の高い群を抽出したが、MLPAでは検出できないものの、NGSなどでは検出可能なマイナーなクローンに付加的な欠失がある群の再発率どうであったのか、ということは気になるところである。

第二に、年代的に仕方ない部分もあるが、DUX4 B-ALLとERG欠失の関連性が十分に説明されていない点である。ERG欠失はDUX4の異常によって基本的には引き起こされるものなので、予後が良いと考えられるDUX4 B-ALLに伴うIKZF1欠失を除くという意味では、ERG欠失の検出では不十分である可能性がある。前述のERG欠失検出の精度も当然問題になる。

その他に、PAR1領域については、この領域の欠失もしくはCRLF2プローベのRetentionという検出方法ではなく、より具体的にCRLF2の活性化を伴う異常、というくくりに変えていく必要があるのではないか、という気もする。GATA3のバリアントも含める必要があるのか、というところも気になるところである。もちろんNGSなどが診断時にルーチン化されていく必要があるが、より厳密にIKZF1plusの定義をしていくのであれば、考慮する必要があるかもしれない。

このような懸念については、今後に明らかにされていくものと考えられるが、少なくともよりテイラーメイド化していく今後のB-ALL治療において、よりハイリスクな群をある程度早期に検出できるという点では重要な報告であることには違いない。

Stanulla M, Dagdan E, Zaliova M, et al. IKZF1plus Defines a New Minimal Residual Disease-Dependent Very-Poor Prognostic Profile in Pediatric B-Cell Precursor Acute Lymphoblastic Leukemia. J Clin Oncol. 2018;36(12):1240-1249. doi:10.1200/JCO.2017.74.3617

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