B-ALL

コンデンシン複合体の異常による有糸分裂の障害がhigh hyperdiploidy白血病をひきおこす

  1. High hyperdiploidyは赤道面への並びがうまく進まず、有糸分裂の前中期の遅れが生じるため、増殖速度が遅く、染色体の分離に異常が起こることで引き起こされる
  2. High hyperdiploidyでは細胞分裂に重要なコンデンシン複合体の異常がみられる
  3. コンデンシン複合体の異常は染色体の濃縮不全や不完全なセントロメア、Aurora BキナーゼとSurvivinの分布異常を引き起こし、紡錘体形成チェックポイント(SAC)不全にいたり、染色体分離不全をおこす
  4. CD34+細胞でAurora BキナーゼやSACを阻害することでhyperdiploidyを再現することができた

小児白血病で最も多いサブタイプが高二倍体白血病とよばれるhigh hyperdiploidy ALLである。予後は非常に良好で再発率は高くないのだが、全体数が多いため小児白血病トータルでの再発数は多くなってしまう。ちなみにHigh hyperdiploidy B-ALLの定義は、
(1)染色体数が51から67であること、もしくは
(2)DNA index≧1.16
となっている。

これらの染色体の増加は、ランダムでおこるものではなく、増加がみられやすい染色体は決まっている。さらに、どの染色体が増加しているか、によって再発率が変わり、2021年には+17+18どちらもなし、もしくは、+5または+20保持のパターンで再発率が高いことが報告された。

増加した染色体の番号の組み合わせでHigh hyperdiploidy B-ALLにおける予後良好群と不良群を抽出 UKALL97/99とUKALL2003のretrospective解析予後良好群:(1)+17+18保持(2)どちらか保持、かつ、...

このhigh hyperdiploidy ALLでの染色体増加は白血病が発病するかなり前から発生していることや、一部は胎児期にすでに発生していることも双子の白血病の研究から明らかになっている。一方で、この染色体の増加がどのようなメカニズムで発生するのか、という点は長らく不明であった。この染色体増加のメカニズムについて報告したのが、「Impaired condensin complex and Aurora B kinase underlie mitotic and chromosomal defects in hyperdiploid B-cell ALL」で、2020年にBloodに掲載された。

まず、各細胞株の比較で、high hyperdiploidy的な細胞株であるMHH-CALL-2の増殖速度が遅いことを示している。正確にはNear haploidの倍体なのでMHH-CALL-2をHigh hyperdiploidyとするのは違う点もあるかもしれないが、High hyperdiploidyの細胞株が存在しない現状では致し方ないと言える。

本論文ではhigh hyperdiploidyのprimary sampleをNestin陽性の胎児骨髄由来mesenchymal stem cell (MSC)と共培養して増殖させることで、high hyperdiploidy細胞の検討も行っている。

この増殖速度の低下は、アポトーシスとG2/M期の増加、有糸分裂の前中期(prometaphase)での遅延によってもたらされていた。つまり中期(metaphase)で赤道面に染色体が一列に並ぶのが、high hyperdiploidyではうまくいかないようだ。

細胞分裂の中期で赤道面に染色体がきちんと一列に並べないと、今度はその後の染色体分離に影響が出てくるのは明白である。つまり、分離がうまくいかず2等分されず、染色体数が偏った分裂をしてしまい、染色体増加および染色体の不安定化が起こってしまうということである。つまり、これがHigh hyperdiploidyの起源となっている。

さて、このようになぜ染色体増加がおこるか、というストーリーが明らかになったのだが、本論文ではさらに、なぜmetaphaseでの染色体の整列がうまくいかないのかについて、追及している。

染色体の形態をよくみてみると、約6割の細胞分裂中期の細胞において、湾曲したり凝縮がうまくいっていない様子が確認された。染色体の凝縮にはコンデンシン複合体が大きな役割をしているため、コンデンシン複合体を形成するSMC2に注目したところ、High hyperdiploidyでは染色体におけるSMC2の量(他のコンデンシン複合体構成タンパクも同様)が著しく少ないことが明らかとなった。これらのmRNAレベルでの発現量は低下していなかったため、翻訳後修飾(PTM)が関与していると考えられた。実際、PTMの関与の証明のためSMC2抗体を用いたMSを行い、アセチル化の増強を検出した。一方でコンデンシン複合体の異常は動原体の形成異常はみられなかった。

続いて、染色体の分離に影響を与える、Aurora B, INCENP, Survivin Borealinによって構成されるchromosome passenger complex(CPC)を調べている。High hyperdiploidyではAurora BやSurvivinの染色体内での分布異常がみられており、特にセントロメアにおけるCPCタンパク量が減少していた。コンデンシン複合体タンパクのノックダウン実験からCPCタンパクの分布異常とコンデンシン複合体と染色体凝縮の異常は密接にかかわっていることも示された。

Aurora Bは中期の赤道面に染色体が並ぶことにも重要である。High hyperdiploidyでのCPCタンパクの分布異常は、紡錘体チェックポイントによる異常な染色体分離の予防を阻害する可能性を示している。

最後に、CD34+造血細胞にAurora Bもしくは紡錘体チェックポイントの阻害薬を加えて培養したところ、染色体の凝縮障害や中期での染色分体早期解離(premature chromatid separation:PCS)を引き起こした。さらに30%程度の細胞においてhyperdiploidの核型を示していることも確認している。

なかなかややこしいストーリーではあるのだが、最後の図7にまとめの図を載せてくれているのは少しありがたい。この論文により、どのようにしてhyperdiploidに至るのか、という部分が明らかになり、コンデンシン複合体の異常がもたらすAurora Bや紡錘体チェックポイントの異常が大きな役割を果たしていることがわかった。

一方で、事の発端でもあるコンデンシン複合体の異常がどのようにしてもたらされるのか、アセチル化の異常などはどのように起きるのか、などまだ未解明な部分は多くあり、これらが将来的な標的治療や、場合によっては白血病の予防にもつながる可能性はあると思っている。

Molina O, Vinyoles M, Granada I, et al. Impaired condensin complex and Aurora B kinase underlie mitotic and chromosomal defects in hyperdiploid B-cell ALL. Blood. 2020;136(3):313-327. doi:10.1182/blood.2019002538

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