- B-ALL、High hyperdiploidyのWGS/WESを用いたゲノム解析
- RTK-RAS経路(KRAS/NRAS/FLT3/PTPN11)やヒストン修飾(CREBBP/WHSC1)に関連する遺伝子異常が多くみられる
- 変異signatureはC>Tタイプで、ETV6-RUNX1のAPOBECとは異なる
- 変異アレル頻度から、染色体増加は早期に起きており、白血病化までには時間がかかっていることが推測された
High hyperdiploidyは小児白血病で最も多くみられるサブタイプであり、約3割のB-ALLがこれにあたる。予後も良好であるため、一般的には比較的強度を弱めた治療を行う。しかし一部が再発することから、増加した染色体の種類が再発リスクを予測することも報告されており、より予後の良い群や悪い群も抽出された。再発率が高い群は治療強度を高める必要がある。

しかし、全体としては強度を弱めた治療を行う。とはいえ、化学療法を用いるという点では副作用も多くみられるため、できることなら標的治療などの方向に持っていきたいという思いもある。そのような次世代型の治療の開発に欠かせないのはゲノム解析であり、少し古いが2015年にNature Geneticsに報告された論文を見てみる。タイトルは「The genomic landscape of high hyperdiploid childhood acute lymphoblastic leukemia」である。
この報告ではトータルで51例のHigh hyperdiploidyが解析されている。内訳は39例のWESと16例のWGSとなっている。一部の例では1-2本の染色体のみがさらにサブクローナルに増加していた。これは、コンデンシン複合体の異常から有糸分裂が障害され、細胞分裂時に分離がうまくいかず染色体数が偏る(同時におこる)という、High hyperdiploidy発生のメカニズムにやや矛盾するが、少数例において一部の染色体の倍化は後におこりうることは2022年にも報告されている。

そのほかの小児がんと同様に、検出されたcoding regionsの変異は10個未満であり、発症年齢とともに変異数が増加していた。点変異、Single Nucleotide Variant(SNV)のSignature(どの塩基がどのような塩基に変化するか)は、C>Tパターンが6割を占めており、多くがDNAメチル化に重要なCpGアイランドに関与していた。このパターンはETV6-RUNX1でみられるAPOBECパターンとは全く異なるため、予後が良好であることや発症年齢は類似しているものの、病気の発生のメカニズムには大きな違いがあることが予想される。
検出された変異は、RTK-RAS経路(KRAS/NRAS/FLT3/PTPN11)やヒストン修飾(CREBBP/WHSC1)に関連する遺伝子異常が多く、特にRTK-RAS経路の異常は半数以上で検出された。この2種類の変異タイプは完全な排他的パターンではないようだ。
KRASの変異は一般的な12/13のホットスポットだけでなく、他の固形がんなどでも活性化変異といわれている117/146などにもみられた。
また、CREBBPの異常は、種を超えて保存されているHATドメインに集中しており、初発時だけでなく再発時に獲得されるなど、白血病の進展にも関連していると言われている。
高2倍体のメカニズムでも重要な、セントロメアに関連した遺伝子の変異も検出されているが、recurrentではなく、解析数が少ないからか、それともpassenger的な異常なのか意義的にはよくわからない。
単一遺伝子に影響を与えるようなfocalな染色体欠失はETV6、IKZF1、PAX5などでみられた。一方でchromothripsisはみられなかった。
このような遺伝子変異の解析から、染色体数の増加と遺伝子変異のどちらが先に起きたのか、どれくらい間隔があいていたのか、といったことを予測することが可能である。基本的に遺伝子変異は2本ある染色体のうちの1本に発生する。そのため、High hyperdiploidyの場合は、3本ある染色体のうち、2本に同じ変異がある場合と1本にしか見られない場合がある。2本に変異があるということは、先に遺伝子変異がおきてから、その変異を持つ染色体が増加したというように考えることができる。一方で1本にしか変異がない場合は、(1)先に変異が起きたがその染色体が倍化しなかったパターンと(2)染色体倍化後に変異を獲得したパターンの2つが考えられる。変異は時間と共に獲得されるものであるため、これらを組み合わせることで、白血病の診断時において、その細胞は染色体の倍化後にどれくらい時間がたっているかを予想することが可能となる。
その結果、1本に同じ変異を有するパターンがかなり多くみられたため、染色体倍化という現象がおきてから白血病と診断されるまでの期間と、正常の造血細胞の染色体が倍化するまでの期間では、前者の方が長いという可能性が考えられた。
一方で白血病発症時12歳以上の2症例においては、倍化から発症までの方が短いという結果だったことから、3-5歳で多くみられるHigh hyperdiploidyの病因と12歳以上の病因は異なる可能性も考えられた。
こうして遺伝子変異という面からHigh hyperdiploidyを見てみると、多くがRTK-RAS経路などの追加の異常を有していることから、やはり染色体倍化だけでは白血病の発症に至るには不十分であり、追加の異常が必要であることがわかる。これは染色体の倍化から発症までの期間の長さにも表れている。染色体の倍化は出生前にすでに起きているという報告もあり、High hyperdiploidyの好発年齢が3-5歳ということも考えると、ETV6-RUNX1のように一部は白血病を発症せず、倍化クローンが失われている可能性も考えられる。裏を返せば、最終的に白血病に転化するスイッチをONにする追加の異常/メカニズムがより明らかになると、白血病になる前の段階で治療もしくは予防が可能になる時代がくるのかもしれない。