Infant ALL

KMT2A-R乳児白血病は非常に未分化なELPに類似した特徴を持つ

  1. KMT2A-R B-ALLはearly lymphocyte precursor (ELP)に類似した発現パターン、表面マーカーを有する
  2. その他のB-ALLはELPより分化段階のすすんだproBやpreBに近い発現パターン
  3. KMT2A再構成は胎児期の非常に早い段階・血球の系統が分岐する前に獲得されていることが、ALL→AML再発の症例の解析で判明した
  4. KMT2A-R B-ALLとELPの間の発現変動遺伝子の解析から、CD72との組み合わせで90%以上の白血病細胞を標的にすることが可能であることがわかった

近年のMRDによる層別化や治療強化などで白血病、特に小児B-ALLの予後は格段に改善してきたが、その中でいまだ十分な治療成績を残せていない群として、乳児白血病があげられる。

2020年に日本のJPSLGの臨床試験MLL-10の結果が報告され、3y-EFSが66.2%という、これまでのヨーロッパ発のInterfant-06試験の6y-EFS 46.1%と比較して非常に良い成績であった。しかし、それでもなおその他のB-ALLの成績が90%を超えることを考えると、改善の余地が多く残されていると言える。

乳児白血病は約90%にKMT2A(MLL)遺伝子の再構成がみられる。KMT2A-Rがみられない群には、NUTM1遺伝子の再構成を持つ群が含まれるが、KMT2A-Rを持たない群の治療成績が90%を超えることを考えると、KMT2A-R群の予後が極めて不良であることがわかる。

つまり、Infant ALLの予後を改善するには、このKMT2A-R群に対するテコ入れが必須であると言える。今回の論文はシングルセルRNA解析を用いた手法でKMT2A-R B-ALLを掘り下げたもので、タイトルは「Single-cell transcriptomics reveals a distinct developmental state of KMT2A-rearranged infant B-cell acute lymphoblastic leukemia」で、2022年にNature Medicineに掲載された(Nat Med. 2022 Apr;28(4):743-751.)。正直Nature Medicineとしては物足りなさを感じる部分もあるが、それは自分がまだ読み込み切れていないからかもしれない。

このグループはscRNAseqの解析を得意としており、2021年にもヒト胎児とDown症候群の骨髄細胞に対するscRNAseqの解析結果を報告している。今回はその時のヒト胎児骨髄細胞のデータをリファレンスとして、乳児KMT2A-R白血病を含む、様々なタイプの白血病が、どのような正常骨髄細胞の分化段階に近いのかをBulk RNAseqとscRNAseqの両方で解析している。分化段階を調べることで、いわゆる白血病の起源(Cell of orgin)にせまれるかもしれない、ということだろう。一般的には、診断時に行うフローサイトメトリーの表面マーカーを見ることである程度の分化段階を推測することは可能ではあるが、KMT2A再構成のように、B-ALL、T-ALL、AML、MPALなど系統を超えて白血病に関与する異常を持つ病気の場合には、たんに診断時の表面マーカーから推測する分化段階だけを見ていても白血病の起源にはせまれないことは明らかである。そこでscRNAseqという手法を用いたのがこの論文である。

その結果、KMT2A-R B-ALLは乳児に限らず、非常に未分化な分化段階であるearly lymphocyte precursor (ELP)に近い(矛盾しない)発現パターンを有していることが明らかになった。ELPはB細胞にCommitmentするpre-proB細胞よりも前の分化段階であり、T細胞など他のリンパ系や骨髄系の細胞に分化することが可能な細胞である。一方で、その他のB-ALLはELPより分化段階の進んだproBやpreBあたりの分化段階(B細胞にCommitment済み)の発現パターンに近いことが示された。後者に関してはこれまでのフローサイトメトリーなどですでに広く知られており、scRNAseqを用いた手法に問題がないことがわかる。その他にELPシグナルを有するものとしてPAX5やMEF2Dサブタイプが挙げられているが、これらは同時により分化したシグナルも有している点がKMT2A-R B-ALLとは異なる。

一方で、同じ乳児白血病でみられるNUTM1-R ALLではELPシグナルはわずかであり、より分化した他のB-ALLに近いシグナルを呈していた。つまり、治療成績の違いからも明らかなように、KMT2A-R B-ALLとNUTM1-R ALLは大きく異なることがわかる。また、KMT2A-Rを持つその他の白血病(T-ALLやAMLなど)ではELPシグナルは見られないことや、乳児以外のKMT2A-R B-ALLでも同様のELPシグナルがみられることから、このELPシグナルは乳児期などの年齢に関係のないKMT2A-R B-ALL特有のシグナルであることがわかった。

そこでこのKMT2A-R B-ALLと正常ELPとの間のBulk RNAseqおよびscRNAseqの両方で共通する発現変動遺伝子を調べることで、白血病細胞特有のマーカーを探した。その結果、近年KMT2A-R B-ALLの標的になると言われているCD72に加え、SEMA4A, SLC12A9、FLT3, PTGER2などのタンパクが白血病細胞の表面にほぼ特異的に発現していることが判明した。これらを2つ組み合わせることで90%以上の白血病細胞をターゲットにすることが可能であることをフローサイトメトリーで示している。CAR-TなどもDual targetが可能になった時代であり、今後に期待したいところである。

その他に、1例ではあるが、乳児KMT2A-R B-ALLの治療後にKMT2A-RのAMLを発症した例を寛解時と合わせてトリオでWGSで解析し、DNA異常から白血病の起源に迫れないかという観点でも調べている。その結果、B-ALLとAMLではKMT2A-R以外に6個の変異が共通して検出されたが、この時期にKMT2A-Rが出現したと考えられ、1分裂につき0.9この変異獲得リスクが血球細胞にあることを考えると、極めて初期の胎児期にKMT2A-Rが獲得されていることがわかる。白血病と寛解時の細胞の共通の異常が2個であったことも踏まえると、KMT2A-Rの獲得が非常に早い胎児期であることはわかるが、それ以上は当然だがさすがに言えなかったようだ。興味深いのはAMLのみで検出された約3000個の変異はチオプリンの暴露によって形成されるシグナチャーを呈しており、B-ALLの維持療法がAML発症時のたくさんの変異のパターン形成に関与していると言えることだろう。ただ、これがドライバーになったのか、単なるパッセンジャーなのかは明らかではないが、KMT2A-R以外のAdd-onの原因の一つなのかもしれない。だたし、AMLでの再発が良く見られるわけではないので、本症例ではそうであった、ということかもしれない。1例解析だとそういうリミテーションが強くなってくるので注意が必要である。

KMT2A-Rは系統をこえた白血病のドライバーであり、乳児白血病などの発症時期を考えるとこの異常が非常に強いドライバーであることはわかるが、一方で本症例の様にAMLにもなれる幼弱な分化段階でKMT2A-Rを獲得している場合に、なぜB-ALLで発症するのかという点に疑問が残る。KMT2A-Rは骨髄間葉系細胞においても検出されるという報告もあるので、血球に分化する以前に異常を獲得することすらあるといえよう。どのように発症時の白血病のタイプになるのかという点は、白血病の起源となる細胞だけの問題なのか(他の系統に分化できるといってもよりB細胞に向かっている段階での細胞かもしれない)、それとも追加のドライバーがアシストしているのか、そうであればそのドライバーはいったい何なのか(変異かも仕入れないし、ゲノム異常以外の何かかもしれない)、それともランダムなのかというところは非常に興味深いところかもしれない。

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