MDS/AML

Germline変異によるGATA1sが引き起こす非ダウン一過性骨髄異常増殖症 (TAM/TMD)とトリソミー21の獲得

  1. 非ダウンの遺伝性GATA1 exon2変異を持つ家族性血球減少症を呈する家系に発症した一過性骨髄異常増殖症(TAM)の報告
  2. Megakaryocyteにクローン増殖したsomaticなtrisomy 21がみられ、寛解時にはtrisomyは消失していた
  3. TAMの発生までのtrisomy 21とGATA1sの獲得順序には決まりがない

ダウン症の新生児期から乳児期に発症する一過性骨髄異常増殖症(TAMもしくはTMD)は、無治療で自然寛解する非常に興味深い疾患である。ゲノム異常の視点からみると、TAMはGATA1sというalternative splicingで作られるexon 3のATGから翻訳された短いGATA1のisoformと、trisomy 21の両者を同時に併せ持つことが知られている。非ダウン児におこるTAMにもこの両者が増殖細胞から検出されることも知られており、この2つの異常はTAMの進展に非常に重要なドライバーであると考えられる。複数の異常がドライバーとして白血病(増殖症)の進展にかかわっている場合、これらの異常の獲得の順番は重要なのか、その場合はどのように病気の進展に関与しているのか、という点は病気のメカニズムという点だけでなく、標的治療への応用という意味でも非常に重要である。

ダウン症児は、ベースとしてtrisomy 21を有していることが多いので、一般的にtrisomy 21を持つ細胞にGATA1変異が獲得されることでTAMに至る、という順番で考えられている。しかし、germlineにGATA1変異を持つ場合は、この順番が逆になるわけであり、これパターンのTAMを報告したのがこの論文で、タイトルは「Germline GATA1 exon 2 mutation associated with chronic cytopenia and a non-down syndrome transient abnormal myelopoiesis with clonal trisomy 21」で2022年にLeukemiaに発表された。

GATA1は血球の分化、特に赤芽球系と巨核球系の分化に重要な転写因子であり、GATA1を欠損するマウスは赤血球などがきちんと産生できず胎生致死となる。一方で、遺伝性のGATA1変異(バリアント)を持つ家系はこれまでにも報告されており、血小板減少や貧血などの症状がみられることから、やはり血球の分化や維持に異常を呈していることがわかる。ただし、これらの家族性の変異はexon 3/4におきており、GATA1sを産生するexon 2の異常ではない。

今回報告されている家系はGATA1のexon2のframeshipt変異であり、まさにGATA1sを産生する異常である。このGATA1sを産生するタイプのgermline変異は極めてまれであり、過去に13例しか報告がないらしい。うち11例が男児であり、やはりGATA1がX染色体上にあることの影響をうかがわせる。過去の報告によるとDiamonod-Blakfan anemiaやモザイクtrisomy 21を有するMDS/AMLなど、呈する症状は様々である。

一方で患児は女児であるが、脾腫、中等度の貧血と血小板減少を呈し、CD34/CD117/CD33/CD7に加えてCD41/CD61弱陽性のmegakaryocyteのクローン性増殖を伴っていた。幼弱な好塩基性でブレブを伴う像もTAMに矛盾していない。骨髄の核型は+21を呈していたが、口腔内スワブでのgermlineでは正常核型であった。最終的にcytarabineの少量投与を要していたが、その後寛解に至り、骨髄も正常核型になっている。つまり、本児のTAMの場合は、GATA1sが先にあり、そのうえでtrisomy 21を獲得していると考えることができる。

経過は2歳10か月まで観察されており、その後のAMKLへの進展などは見られないものの、肝臓の軽度繊維化や輸血を要する貧血と血小板減少は持続しており、やはりgermlineのGATA1変異の影響は残っていると思われる。

GATA1sは正常ではみられない異常な産物というわけではなく、exon2のスキップを伴うalternative splicingは正常人でもおこっている。GATA1とGATA1sは同じDNA結合部位に競合し、さらには下流に対し異なるシグナルをもたらす。つまり、通常はこの両者がよいバランスを保つことで分化と増殖のシグナルが調節されているが、germlineにGATA1変異を有する場合はこのバランスがGATA1sに偏り、さらに男性ではX染色体が1本ということもあり、報告されているように症状を伴うことが多いのかもしれない。

本例は女児ではあるが、本家系では母型の家系がこのGATA1変異を有しており、実際に祖母と母は軽度の症状がある。女性もX染色体のinactivationが起こることが知られており、機能的に異常を持つアレルが優位となることが症状と関連しているということなのだろう。本例でもallele specific expressionを調べており、TAMの診断時では変異アレルが優位だったが、寛解時は正常アレルが優位になっていたことを示している。

前述のとおり、このTAMは寛解するものの一部が数年以内にAMKLに進展してしまう。幸い予後は悪くないものの、この自然寛解するTAMがAMKLに至るまでの過程にはまだ謎が多く残されている。ゲノム異常という面では、TAMと比較してAMKLでは付加的な異常を獲得していることが2013年に報告され、最近ではこのTAM/AMKLの付加的異常を順番に加えて影響を調べた報告も2022年に報告されている。

さて、異常の順番というところで、TAMの2つのドライバーであるtrisomy 21とGATA1sはどちらが先におこってもよい、という一つの例がこの報告で示されたということにはなっている。ただし、この報告は基本的には核型での確認しかしていないということには注意が必要である。つまり、非常に低頻度のモザイクtrisomy 21をgermlineに併せ持っている可能性は否定できず、その場合は必ずしもGATA1sが先であるとは言えなくなる。また、本児がMRDレベルでこのtrisomy 21細胞を消失しているのか、AMKLやMDS/AMLなどへ進展していくのかどうかも気になるところではある。

いずれにしても、非ダウンTAMにおける異常細胞でもGATA1sとtrisomy 21を有していることから、この2つの異常は胎児発生の過程で起きやすい異常ということなのかもしれない。

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