再発ALL

白血病再発に関連する6-MP耐性を引き起こすNT5C2遺伝子の活性化を阻害する新しいNT5C2阻害薬CRCD2の効果

  1. 新規NT5C2阻害薬CRCD2をスクリーニングで同定
  2. 白血病再発に関連するNT5C2変異に対する活性阻害だけでなく、変異を持たないNT5C2にも6-MPの相乗効果がみられた
  3. その原因として、NT5C2 S502リン酸化が、変異によらない新しい6-MP耐性のを引き起こしていたことを発見
  4. 6-MPと併用することにシナジー効果やNT5C2変異を原因とする再発に対する治療効果が望める

ALLの治療成績の向上の大きな理由の一つに、多剤併用化学療法の開発があげられる。全体で数年に及ぶ長期治療の締めにあたる、維持療法の開発も大きく治療成績の向上をあげた理由にあげられるだろう。

しかし、それでもやはり再発する症例は一定数みられる。最近のゲノム解析技術の発達により、多くの再発白血病が初発時には見られないNT5C2遺伝子の変異を持っていること、この変異は維持療法に使用される6-MPに耐性であること()、そしてこの変異は6-MPを長期に使用することで獲得されること、さらに増殖力などを犠牲にしてこの耐性を獲得していることなどが明らかになってきている。

NT5C2遺伝子はヌクレオチドを分解する酵素をコードしており、通常では核酸合成に重要なプリン塩基の量の調節を行っている。6-MPは細胞内で分解され、その中間体が核酸合成や代謝を阻害したり、DNAなどに取り込まれて細胞死をもたらす薬剤である。NT5C2はこの6-MPの中間体にも作用して失活させてしまい、結果として6-MP耐性をもたらす。

このNT5C2は2量体が2つ組み合わさった4量体で構成されており、通常は作用部位が内部に閉じ込められた失活状態にある。変異があると、この立体構造が変わり、作用部位が反応可能な活性化状態になる。

つまり、NT5C2で見られる変異は機能獲得型変異ということになる。この活性型NT5C2を阻害する薬剤の開発が進められてきてはいたが、その中で将来的に臨床応用が期待できる新規薬剤が同定された。さらに、その機能解析の結果から、変異なしでNT5C2活性型をもたらすメカニズムまでも発見できてしまった、ということがCancer Discoveryに報告された。タイトルは「Pharmacological inhibition of NT5C2 reverses genetic and non-genetic drivers of 6-MP resistance in acute lymphoblastic leukemia」である。

まず、再発ALLで最も高頻度に見られるNT5C2 R367Q変異タンパクを合成し、それに対する小分子化合物のスクリーニング(6万個以上!)により、新規NT5C2阻害薬であるCRCD2を同定した。

このCRCD2はNT5C2 R367Q変異を発現させた白血病細胞において、この変異部位に直接結合することで、NT5C2の活性を阻害し、その結果プリン代謝の中間産物の回復をもたらすことがわかった。

一方で、驚くことに活性化メカニズムの異なる違う部位のNT5C2変異体と野生型にもCRCD2の効果があることも判明した。そして、そのメカニズムとして、CRCD2がNT5C2の立体構造を変化させることが明らかとなった。

続いて、実際に様々なNT5C2変異を有する細胞株や患者ALL細胞を用いたPDX細胞に対してCRCD2を使用し、6-MPの耐性を失わせること、そしてNT5C2野生株においても6-MPの感受性を高めることを確認している。

NT5C2野生株においてもCRCD2の効果がみられたことより、野生株においても6-MPの耐性を引き起こすNT5C2活性化が起きているのではないか、ということが推測された。これを示すため、同じ細胞株におけるNT5C2野生株とknockout株を比較した。その結果、野生株にCRCD2を投与した時と、knockout株で同等の6-MPの感受性を示し、さらにknockout株ではCRCD2の投与による感受性の変化は見られなかったことから、野生株において一定のNT5C2活性化が起きていることが明らかとなった。

続いて、pre-clinical試験としてCDCR2をマウスに投与し、その効果が調べられた。5日連続投与、2日休薬という方法では特に目立った副作用は見られなかった。6-MPとの併用による副作用の増強も目立つレベルではなかった。

Tamoxifenによるconditional inducibleシステムでNt5c2変異を導入できるT-ALL細胞をマウスに移植し、6-MP投与及びCRCD2併用での効果を見ると、6-MP単独(耐性)と比較して大きく腫瘍量が減少しており、併用による6-MP耐性解除の効果が示された。Nt5c2野生型への併用効果も確認された。さらにNT5C2変異を有する患者ALL細胞のPDXモデルでも同様の効果を確認している。

最後に、野生型のNT5C2がどういうメカニズムで活性化しているのかを調べている。というのも、再発ALLの6割以上がNT5C2などの6-MP耐性の変異を持っていないため、野生型での活性化のメカニズムを明らかにし、治療標的とすることは、再発ALLの治療および予防に非常に重要と考えられるからである。

NT5C2の立体構造の変化が活性化をもたらすため、mass spectrometryで野生型NT5C2タンパクを解析し、リン酸化部位、アセチル化部位を同定した。これらの部位は進化の過程で種を超えて保存されており、非常に重要な部位であると考えられる。

あとは、これらの部位のアミノ酸をリン酸化もしくはアセチル化を模擬/破壊するアミノ酸に変異させ、6-MPへの影響を調べている。その結果、S502のリン酸化が非常に重要であることが判明した。実際に4量体を形成するNT5C2タンパクのcrystal structureを見てみると、S502は相手NT5C2のAsp229と水素結合を形成しており、不活化状態の立体構造の維持にかかわっていた。一方でリン酸化状態になると、この水素結合が保てなくなり、活性部位が外側にでてくる。実際にリン酸化をさせず、この水素結合部位に変異を入れて水素結合を除去しても、NT5C2は活性化された。

このS502のリン酸化を、初発時のALLと再発時のALLで比較すると、半数の再発ALLにおいてリン酸化が増強していた。実際に模擬リン酸化アミノ酸に変異させたNT5C2を発現する細胞で6-MPとCRCD2の併用をテストし、6-MPの耐性が解除されることを確認している。

以上の結果から、NT5C2には変異による活性化だけでなく、変異によらないリン酸化を介した活性化のメカニズムを有しており、これが再発ALLクローンの一員となっていることが示唆される。6-MPの治療効果を高めるという意味では、CRCD2との併用は非常に重要と考えられる。ただ、少し残念なのは、半減期が3.2時間と短いことと、この論文においては注射での投与となっていることで、もし経口薬ができないのであれば維持療法としては使いにくい印象もある。しかも、野生型における活性化の解除は短期投与では確認できていないので、定期受診に合わせた投与も意味がないかもしれない。一方で早期強化などでの併用は可能かもしれないが、維持療法における6-MPの効果と比較してどれだけ再発クローンを減らせるかはわからない。

また、NT5C2のより強度の不活化をもたらすCRCD2は、6-MPの中間体の濃度を高めるため、より強い細胞毒性をもたらす可能性がある。特にTPMTNUDT15などのバリアントを有する例に注意が必要であることは明白であるが、それ以上に、6-MP単独投与では検出できなかった、これらより弱い代謝経路への影響を与える他の遺伝子のバリアントによる強い細胞毒性の出現などにも注意は必要かもしれない。

いずれにしても、維持療法の強化の可能性をメカニズムも介して明らかにしており、将来的に治療に組み込まれていく可能性を秘めた薬剤だと思われる。

Reglero C, Dieck CL, Zask A, et al. Pharmacological inhibition of NT5C2 reverses genetic and non-genetic drivers of 6-MP resistance in acute lymphoblastic leukemia [published online ahead of print, 2022 Aug 19]. Cancer Discov. 2022;CD-22-0010. doi:10.1158/2159-8290.CD-22-0010

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