まとめ解説シリーズ

【まとめ解説】Hypodiploid ALL 低二倍体白血病

Hypodiploid ALL(低二倍体白血病)は非常に稀なB-ALLのサブタイプであり、定義上は染色体数が44本以下の急性リンパ性白血病を意味する。大きく分類して3つある、染色体数の異常によって引き起こされる白血病の一つである。
(1)High hyperdiploid ALL
(2)Hypodiploid ALL
(3)iAMP21

【まとめ解説】 High hyperdiploid ALL 高二倍体急性リンパ性白血病 High hyperdiploid ALLは日本語で高二倍体急性リンパ性白血病とも呼ばれる。このサブタイプは小児急性リンパ性白血病で最...

このHypodiploid ALLは、残存する染色体数によって3-4個のサブタイプにさらに分類される。
(1)High hypodiploid ALL:40-44本(40-43/44本をさらに分ける場合もある)
(2)Low hypodiploid ALL:30-39本/DNA indexが0.65-0.82
(3)Near-haploid ALL:24-29本/DNA indexが0.65未満

しかし多くの場合、Hypodiploid ALLといえば(2)と(3)のLow hypodiploidとNear-haploid ALLのことをさすことが多い。というのも、この2つのサブタイプは非常に予後が悪く、独特のゲノム異常を有しているからである。また、Near-haploid ALLは小児白血病でのみみられ、成人ではみられないが、Low hypodiploid ALLは小児・成人白血病のどちらにおいてもみられる。Low hypodiploid ALLの免疫表現型の特徴はCD10陰性例がみられることで、乳児白血病のようにpro-Bもしくはそれ以前の細胞が白血病の起源Cell of originである可能性を示唆している。

KMT2A-R乳児白血病は非常に未分化なELPに類似した特徴を持つ KMT2A-R B-ALLはearly lymphocyte precursor (ELP)に類似した発現パターン、表面マーカーを有...

2019年のHypodiploid ALLの国際研究の報告によればHigh hypodiploid ALLは非常に多様な集団であり、特に染色体44本の例はNear-diploidとも呼ばれ、ETV6::RUNX1などその他のゲノム異常を同時に有していることが多く、さらにHypodiploid ALLの中では比較的予後は良好であった。また、Hypodiploid ALLの中においても、染色体40-43本のケースは非常に稀である。そのため、以下ではLow hypodiploidとNear-haploid ALLのことをHypodiploid ALLとして中心的に扱っていくことにする。

MRDによるリスク層別化による治療成績の改善はみられたものの、Hypodiploid ALLの予後はいまだに非常に悪く、5年OS/EFSは61%/55%と報告されている。寛解導入療法終了時(EOI)のMRDが陰性の場合は予後は良好で、移植による予後の改善はみられなかった。国際研究の結果でも、MRDを用いたリスク層別化は予後の改善をもたらしたが、一方でEOI-MRDが陽性の場合は非常に予後不良である。後述のGermline TP53変異のことなども考慮すると、単に治療を強化していくということよりも、免疫療法などの違う視点からの治療が重要となっていくのだろう。

Hypodiploid ALLにおいて失われる染色体は、High hyperdiploid ALLと同様に非ランダムであり、特に21番染色体は決して失われることがない。つまり、白血病細胞の生存にとっても非常に重要な染色体なのであろう。特にNear-haploid ALLでは、8番10番14番18番21番性染色体が残存しやすく、これはHigh hyperdiploid ALLにおいて増加しやすい染色体とほぼ類似している点に注目したい。結果として相対的な染色体上の遺伝子の発現が近くなるため、Near-haploid ALLとHigh hyperdiploid ALLの発現プロファイルは非常に類似しており、tSNEなどの手法では両者を見分けることは不可能である。

小児急性リンパ性白血病B-ALL/T-ALLの網羅的ゲノム解析 2754例の小児ALLをWGS/WES/RNAseqで解析ドライバー変異数は1例あたり4個程度と成人がんと変わらずHyperdipl...

実際に、Near-haploid ALLとHigh hyperdiploid ALLが似ているのは発現パターンだけではない。大きな問題となるのは、Hypodiploid ALLの一部が倍化して、核型検査において染色体数がまるでHigh hyperdiploid ALLのようになってしまうことである。これは”Masked hypodiploidy”とも呼ばれる現象で、約6割のHypodiploid ALLにおいてみられる。診断時に、きちんとHypodiploid ALLとHigh hyperdiploid ALLを鑑別することは、両者は治療方法や予後が大きく異なるので非常に重要なことである。

このMasked hypodiploidyの鑑別方法は大きく3つの方法がある。1つ目は、増加している染色体のパターンをよくみることである。
Hypodiploid ALL:染色体数は基本的に2本か4本
High hyperdiploid ALL:染色体数3本をベースして、2本か4本(21番Xに多い)が混在

2つ目は、DNA indexを用いること。
3つ目の鑑別方法は、DNAを用いたゲノム検査が必要で、WGS/WESまたはSNPアレイを用いて、loss of heterozygosity (LOH)を検出する方法である。Hypodiploid ALLでは、基本的には片方のアレルが失われているため、倍化してトータルの染色体数が増加しても、ほとんどの染色体においてヘテロ接合性は失われている。シーケンスなどが必要にはなるが、非常に簡便な鑑別方法である。

Hypodiploid ALLのゲノム異常は、Low hypodiploidとNear-haploid ALLにわけて記載する。

【B-ALL】Hypodiploid ALLのゲノム異常 Low hypodiploidとNear-haploid ALLを中心としたWGS/WESを用いたゲノム解析Near-haploid...

Low hypodiploid ALLではTP53、RB1、IKZF2、CDKN2A/Bの異常がよくみられる。特にTP53の異常は9割を超える症例で検出され、DNA-binding siteを中心としたmissense変異が多い。また、TP53の存在する染色体17番はHypodiploid ALLにおいて非常に失いやすい染色体の中の一つであり、1ヒットの変異で両アレルの正常TP53を失うことが多い。さらに非常に興味深いことに、小児白血病と成人白血病でTP53変異のタイプが大きく異なる。TP53以上を持つ小児Low hypodiploid ALLの約半数で、白血病細胞以外の細胞からも同じ変異が見つかる、つまりGermline 変異である一方で、成人のHypodiploid ALLでのTP53は全例がSomatic変異である。これは両者の白血病に進展するメカニズム異なることを意味するだけでなく、小児白血病におけるLow hypodiploid ALLには、半数でLi-Fraumeni症候群様の異常を有している可能性を示唆している。そのため、小児白血病でLow hypodiploidと診断した場合は、家族歴をしっかりと確認し、遺伝子カウンセリングを行って、ゲノムの確認を行うことが重要と考えられる。これは検出されたTP53変異がde novoではなく遺伝性のものである可能性もあり、患者自身のその後の治療方針(放射線や移植を積極的には行わないなど)やリスク対応だけでなく、家族を含めたリスク管理を行う必要が出てくるかもしれないからである。

一方でNear-haploid ALLではRTK-RAS経路の異常やヒストン修飾関連遺伝子の異常(特にCREBBP)、IKZF3、PAG1欠失などが多くみられる。このパターンはHigh hyperdiploid ALLで見られる異常と似ており、発現パターンだけでなく、変異経路も似ているということになる。実際にMasked hypodiploidyとして見られるNear-haploid ALLの倍化細胞は、Near-haploidyの細胞と比較して化学療法の感受性が高いと考えられる。というのも、倍化細胞を有する例とそうでない例では、倍化細胞の有無によるOSの差は見られないが、倍化細胞がみられるのは診断時のみで、再発時の白血病細胞はすべてHypodiploidyだからである。ただし、High hyperdiploid ALLと同じRTK-RAS経路の異常がみられるものの、異常のみられる遺伝子は異なり、High hyperdiploid ALLではあまり見られないNF1の異常が多い。多くはExon15-35の欠失でRAGの異常活性による影響と考えられている。また、PAG1はSrcキナーゼに負の影響を与えるため、PAG1の欠失は、Srcキナーゼ経路の活性化をもたらす可能性が考えられる。これはDasatinibなどでの標的治療の対象になりうる可能性もある。

他にも、High hyperdiploid ALLの細胞はBCL2阻害薬やPI3K-Akt阻害薬への感受性があることも報告されており、このような治療薬を組み込んでいくことが、特にMRD陽性の例においては重要なのかもしれない。

error: Content is protected !!